テレビドラマやアニメで観る「屋台のおでん」に憧れたものです。私の地元には屋台なぞなかったし、上京した最寄り駅前にもないじゃないですか。山手線内の駅前にはあったかな。アレは都会の文化なんですね。だから、私が初めて出会った美味しいおでんはコンビニのそれ。一人暮らしをするようになってからお世話になってますが、まず汁がちゃんと濃いのが嬉しい。ご飯にかけてもいけるし、なんならポットに入れてお弁当のお供のスープとしても十分な働きをしてくれます。そもそもレジの前に並ぶ鍋に浮いている時点で、こちらは期待してないわけです。あの冬場のコンビニ内の煮詰まった匂いも正直苦手です。でもお手軽に選べて、かつ安価に食えるっていうのが『おでん』のファスト性だとすれば、コンビニとの相性は抜群だなと。普通に美味しいし、安い。私はコンビニおでんで満足です。
番外「おでんっぽいものには気をつけたい」
寒い屋外で、鍋に沢山串の刺さったこんにゃくが浮いていて、行列をなしてる観光地の一角に遭遇したことがあります。めちゃくちゃ美味そう。結果大失敗。ただの熱いこんにゃく。寒さ、湯気、行列というシチュエーションに騙されました。あれだけは許せない。味が全くなかった。逆にいえば、シチュエーションで客は騙せるということか。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!
※週刊朝日 2023年1月6-13日合併号