東京電力福島第一原発の敷地内には処理水をためるタンクが立ち並ぶ/2019年8月、福島県大熊町 (c)朝日新聞社
東京電力福島第一原発の敷地内には処理水をためるタンクが立ち並ぶ/2019年8月、福島県大熊町 (c)朝日新聞社
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 福島県相馬市の漁業が直面するコロナ禍とトリチウム処理水問題。漁師たちのジレンマが続く中、新たな取り組みが次々に始動しているという。AERA 2020年8月24日号では、本格操業を目指す漁師たちの今とこれからを取材した。

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 福島県漁連は、国の安全基準、1キログラム当たり100ベクレルより厳しい50ベクレルの自主基準を設定した。この年のヒラメは、厳しい自主基準を下回り、制限解除をするかどうか、国との話し合いが続いていた。しかし7月に「66ベクレル」が出て、結局1年後の16年6月の解除になった。

 試験操業での漁獲量が、震災前の実績に届かない場合、差額相当の金額を東京電力は、漁師に補償している。だが、若い漁師らにとっては、これが「屈辱」でもある。

「獲ったら獲っただけ稼ぎになるのが漁師だ。いくらでも魚を獲ってくる自信はある」

 そんな若手の不満を、相馬市で生まれ育ち、「清昭丸」(19トン)の4代目船主を継いで21年になる菊地基文さん(43)はしばしば聞く。高齢化と後継者不足に悩む漁協が多い中で、相馬双葉漁業協同組合は若い漁師が多い。正組合員818人、沖底船23隻、小型船415隻が所属(17年度末現在)するが、沖底船の乗組員は40歳未満が3割を占め、小型船でも少なくない。「沖底」では、震災後の苦しい状況の中でなお、18人が新たに後継者となった。

 ただ、漁の実態は震災前と大きく異なる。深夜に出港した後、1~2泊の沖泊まりで8~15回網を曳いた震災前と違い、試験操業では、週2、3回の日帰り操業に限定された。このため、19年の漁獲量は3584トンと、震災前(10年)の2割弱にとどまっている。

 若手のエネルギーを生かすべく相馬双葉地区の底引き網部会は、この9月から5年計画で「復興プロジェクト」を進める。水産庁の「がんばる漁業」事業に認定され、7隻の底引き船の新規建造支援が決まった。今後出航を増やし、震災前の2割弱にとどまっていた漁獲量を、5年後には6割まで回復させる計画だ。

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