◆共存図るANA、日本狙う格安勢◆
「私たちはすでに関西空港を拠点とするLCC『ピーチ・アビエーション』に出資している。同様にエアアジア・ジャパンは成田拠点のLCC。羽田から成田に移る旅客より、新幹線やバスから奪う客のほうが大きく、グループ全体で見れば収益は拡大する」
昨年10月、羽田空港へ32年ぶりに国際定期便が戻って以来、首都圏から遠くて不便な成田から近くて便利な羽田へ、ANAも日本航空(JAL)も運航体制を移している。
そこで、成田の低収益路線をエアアジア・ジャパンに委ね、ANAは羽田の高収益路線に特化する。今回の動きは羽田シフトの一環だというのだ。国土交通省の幹部が分析する。
「確かに羽田は国際化したと言っても容量がすでに満杯で、海外LCCがつけ入るすきはほとんどない。ならば羽田便をきちんと確保したうえで、海外LCCの攻勢を受けている成田でアジア最強のLCCと組むことで逆襲に出る。JALやスカイマークへの対抗策にも使えるということです」
しかし、それほど余裕のある選択だったとは言い切れない側面がある。
「これまで日本市場は参入が難しいと思われていたが、JALが倒産し、スカイマークが躍進した。海外のLCCは日本市場の変化に気づいている」
あるANA幹部はそう指摘する。
大手2社の寡占が新規参入を阻んできたから、国内運賃は高止まりして大手の収益源になってきた。ところが昨年、JALは債務超過で会社更生法を適用された。路線を大幅に縮小したため、満杯だった国内路線に空きができた。
さらにスカイマークは、リーマンショック後の09年度、JALが経営破綻し、ANAも赤字だったにもかかわらず黒字を達成。羽田を中心に1万円を下回る運賃で高収益をあげている。今秋からはエアアジア・ジャパンに先駆けて、成田から札幌、福岡などの国内線に就航する。
「スカイマークは国内では低コストでも、海外のLCCほどではない。海外勢が『自分ならもっとできる』と思っても当然でしょう」(前出の幹部)
実はエアアジアと並ぶアジアLCCの雄、ジェットスターもまた、JALと合弁で「ジェットスター・ジャパン」の設立を検討している。関係者によると、エアアジアと同じく成田を拠点として、アジアへの国際線だけでなく国内線にも参入する意向だという。
ジェットスターは日本に最初に就航した海外LCCだ。カンタス航空の子会社としてオーストラリア・メルボルンを拠点とし、親会社に縛られない積極的な経営で路線を拡大して、今やエアアジアと並ぶ規模となった。再上場を目指すJAL社内では合弁への慎重論が強いが、今回の動きで、もはや待ったなしとなった。
このほか、中国のLCC春秋航空も日本法人の設立を模索していると言われている。航空自由化の波に乗って急成長するアジアで唯一、「鎖国」してきた日本のおいしい国内線に、今や海外から「黒船」ならぬLCCが「開国」を求めて押し寄せているのだ。
「近い将来、近距離線はすべてLCCに占拠されるでしょう。その時に備えて、両刃の剣でも大手はLCCと組まざるをえない。LCCとの合弁は難しいでしょうが、もし失敗すれば、日本にはスカイマークと海外LCCしか残らなくなるかもしれません」
LCCに詳しい丹治隆・桜美林大教授(エアライン・ビジネス)はそうみる。
一方、エアアジア・ジャパンが就航する成田空港にとっては、エアアジアは救世主となりそうだ。