◆成田には救世主、羽田を巻き返せ◆

 羽田の国際化以来、成田の国際線は旅客が減少し続けている。そこに、東日本大震災による海外旅行客の日本離れが追い打ちをかけ、ライバルの韓国・仁川空港に今年、追い抜かれることが必至だからだ。

「年間で1番のかき入れ時の夏なのに、旅客数は昨夏の85%しか戻っていない。震災後、毎日100便近かった欠航が、今でも数便出ています」

 担当者からはあきらめの声が出ている。今年度の推定旅客数は2600万人と昨年度より700万人以上落ち込むとみられている。昨年は3348万人と、成田にあと39万人に迫った仁川との逆転はもはや避けられない。航空貨物量ではすでに逆転されており、成田の没落は決定的となる。

 それだけに、成田はLCC専用ターミナルの建設を検討するなど、LCC誘致に力を入れてきた。

 成田にはもはや羽田のような容量制約がない。羽田国際化で、長年続いていた地元の空港反対運動が沈静化し、2014年度には離着陸回数を現在の約1・5倍の年間30万回に拡大することで合意を得たからだ。エアアジア・ジャパンで国際線のみならず国内線も拡充すれば、羽田を巻き返すことも夢ではなくなる。

 ただ、問題は空港から首都圏まで、京成電鉄のスカイライナーを使った場合で2400円もかかることだ。これではいくら航空運賃が安くても話にならない。

 また、成田の高い空港利用料も問題だ。エアアジアは中国や韓国でも展開中で、日本がいつまでも高コスト体質のままでは、海外へ移ってしまう可能性がある。

 さらに日本の航空業界全体にとって、大きな問題がある。国交省の別の幹部が指摘する。

「大手は羽田に路線を集中させるというが、羽田の国際線はあと1日40便増やせば満杯だ。成長余力のない羽田にシフトして生き残れるのか。結局、高い羽田から安い成田へ、客が流出するのではないか」

 そこで浮上するのが、羽田での機材の大型化だ。航空専門家たちが指摘する。

「羽田発着の高収益路線に総2階建てのA380を導入して、海外LCCには簡単にまねできない大量輸送をすれば、収益が増え、運賃も下げることができる」

 A380導入について、ANAはまだ明らかにしないが、ANAが関心を示しているという情報はここ数年、何度も流れている。

 実際、スカイマークはLCCにもかかわらず、この巨大機で2014年度に欧米線に進出する。その狙いを業界関係者が明かす。

「エアアジアと真っ向勝負をしても勝ち目はない。ならばA380を使って、運賃はエアアジアよりは高くても大手より安く、大手並みの座席とサービスを提供すればすみ分けられる」

 ANAも羽田増強策を打ち出すのは間違いない。同社関係者が明かす。

「次はANA本体の強化だ。新素材でできた燃費効率のいい新型機B787を世界に先駆けて導入し、長距離国際線のサービスを中距離にまで広げる。そうしてANA本体、エアアジア・ジャパン、ピーチ・アビエーションのそれぞれを市場ごとに組み合わせて投入する。今の事業形態にこだわっていては、激化するアジア市場では生き残れない」

 果たして数年後、羽田や成田を占拠しているのはANAやJALの見慣れた翼なのか、それとも色鮮やかな海外LCCの大群なのか。それを決めるのは、誰でもない私たち自身だ。 (本誌・三嶋伸一)

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