依存症者の治療施設を運営するダンルン・ジェームズさん(32)によれば、こうした企業は密売業にも手を染めており、作業効率を上げるために労働者に最初は無料で薬物を支給し、依存症になったところで売りつけるのだという。労働者を半永久的に依存症にするこのシステムによって、企業側は事業と薬物の両方から利益を得られるというわけだ。
カインさんは17年に薬物所持で服役した後、ダンルンさんの治療施設にいる。回復したら何がしたいかと問うと「家族のためにまた働きたい」と答えた。
だが、コロナ禍で依存症者を取り巻く状況は厳しさを増している。7月、ダンルンさんに連絡をとると、彼の治療施設は経営難に陥っていた。コロナ対策による国境封鎖や外出自粛によって国内経済が打撃を受け、支援者からの寄付や患者からの治療費の支払いが止まり、治療に必要な薬や医療物資の流通も滞っているからだ。
より悪いことに、コロナで職を失い鉱山や密売組織で働きはじめる貧困層が増えており、カチン州の麻薬市場は以前よりさらに活況を呈しているという。ダンルンさんは言う。
「感染症を恐れていては家族を養えませんから、鉱山労働者は相変わらず薬物を精力剤代わりにして、すし詰め状態で働いています。貧しさのせいで、ここでは薬物やコロナの問題を気にしている余裕などないんです」
(ライター・増保千尋)
※AERA 2020年8月31日号より抜粋