なんたることか。1月20日、つまり封鎖の3日前以前、武漢市民が知り得た情報では、このウイルスは人から人にのみ伝染し、致死率は高くないということだった。それがどうだ、現況を見るにその伝染性は非常に高く、感染者は症状が出ない状態であっても他人にうつす可能性がある。
ロックダウン以前、歩行者のマスク着用率が10パーセント以下だったことを思い出し、私はおろおろし、パニックになった。まるで全武漢市民がウイルスうようよの空気の中で1カ月もの長期間「ストリーキング(丸裸で疾走する)」をしたようなものだ。感染者の数はおそらく政府発表の数倍、数十倍に上っていることだろう!
私はびくびくしながら同僚、親しい友人が病気にかかっていないか尋ねはじめた。また、自分の過去の行動の軌跡を振り返り、飛行機に乗らなかったことを幸運と思いはじめた。機内に無症状の感染者がいたら、あるいは私自身がそうだったらどうなっていたことか。
■焦りを覚える日々
不幸中の幸いだったのは、私が最後に外出した1月19日から14日間経った2月2日まで、ずっと家に留まって何事もなかったことだ。ウイルスに感染していなかったことになる。同僚たちもごく親しい友人たちもみな無事だった。微博の友人グループでは一人だけ高校の同級生の感染が確認された。このころになってようやく私は自分の論理的思考能力をゆっくりと取り戻してきた。
数日前からネットに爆発的に増えた情報によると、武漢の新型コロナウイルス禍は昨年2019年12月に始まり、その後1カ月余、当局は当り障りのない対応で警戒情報も出さず、市民の90パーセントはマスクもしていない状況だった。それが一転、武漢市全体の緊急動員と全国からの支援がありながら病院のベッドに空きはなく、数えきれない患者が受け入れる病院もないまま家に留まっている。明らかに1月23日の封鎖以前からの感染の累積によるものだ。
日本への里帰りから戻った日本人の感染比率から類推すると、武漢に10万人を超す感染者がいてもまったく不思議ではない。しかも、いくら全国の医療資源が続々と武漢に注ぎ込まれても、患者の収容が間に合わないようでは治療最適期を逸してしまい、その後に入院できても助からないかもしれない。