医師が診察室の中で患者に適切な指導を行えたとしても、診察室の外で触れる誤った医療情報で体調が悪化してしまう患者さんはたくさんいます。そういった問題を解決すべく、京都大学医学部特定准教授の大塚篤司医師は昨年、同じ危機感を持つ医師たちと一般社団法人医療リテラシー研究所を設立しました。一般の人の医療リテラシーを上げるために行う活動「SNS医療のカタチ」などについて語ります。
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2020年になり新型コロナウイルス感染症が拡大して、「エビデンス」や「医療リテラシー」という言葉が急激に普及した印象を持ちます。エビデンスとは「根拠」という意味です。医療情報を目にした際は質の高い医学論文に基づいているかどうかが判断で重要になります。また、医療リテラシーとは、病気に関わる情報や制度を正しく理解し活用できることを意味します。医療リテラシーを高めるためにはエビデンスについて理解しておく必要があり、医療リテラシーを高めることが自分の健康を守ることにつながります。
私はいまから10年以上前、アトピー性皮膚炎と標準治療に関する医療情報をブログで公開していました。当時、インターネットの世界では間違った医療情報が大半を占め、診察室で向き合う患者さんがネット情報で混乱することが多々ありました。しばしば、主治医に確認することなくネットでの医療情報を鵜呑みにして、通院や服薬をやめて症状が悪化するケースもみられました。いまのように、エビデンスも医療リテラシーも一般の方に普及していませんでした。
まだまだ医学的、科学的根拠が乏しい医療情報がインターネットにはありますが、状況はだいぶ改善しています。以前は「がん」や「アトピー」を検索サイトで調べると、民間療法や個人体験談はずらっと並んでいましたが、いまは公的機関が発信する根拠ある情報にまずたどり着きます。医療リテラシーが高い人は有益な医療情報を無料で享受できる時代へと変化しつつあります。
それでも、発信力のある人や組織が間違った医療情報をマスメディアで拡散し、多くの方に健康被害が広がるリスクは現代社会で残ったままです。診察室の中で適切な指導が行えたとしても診察室の外で触れる医療情報で体調が悪化してしまう患者さんはたくさんいます。