エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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今年6月、米医薬品大手は、アジアや中東で販売していたシミ消しクリームの販売中止を発表。美白の是非が議論されたことに対し、「意図するものではない」とした(写真:gettyimages)
今年6月、米医薬品大手は、アジアや中東で販売していたシミ消しクリームの販売中止を発表。美白の是非が議論されたことに対し、「意図するものではない」とした(写真:gettyimages)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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「美白」は差別か。化粧品会社が「ホワイトニング」という表現をやめる動きがあるそうです。あなたは美白化粧品を使っていますか? 差別と聞いて、意外に感じますか?

“白い”肌が望ましいというメッセージは、肌の色の多様性を否定し、メラニン色素の薄い肌をそうでない肌よりも優位に位置付けて、結果として白人優位主義的な価値観を強化することになる。そう言われたら「いや、そんなつもりで使ってないし、人種差別もしていない」と答える人がほとんどでしょう。

 私も美白化粧品を使っており、レーザーでシミを取っています。でも、白人になりたい!と思ったことはなく、そのために美白をしているのでもありません。シミがない状態を望ましいと思うのはなぜか。あってもいいじゃないか。それはいつも、エイジズムの観点からの自問です。加齢をネガティブに捉え、年齢で人を差別する気持ちがあるのかも?と。真新しい状態を望ましいとするケガレを嫌う習慣の影響や、潔癖性的なこだわりもあるかもしれません。でも、人種差別を助長する価値観が潜んでいるとは自覚していませんでした。

 私の瞳は焦げ茶色です。もし、「美青」が美容の基本だったら。目の色を薄くする商品や青い瞳を強調する画像があふれ、虹彩の茶色いシミを嘆く光景が当たり前だったら。世界には茶や黒の瞳の人が虐げられてきた歴史があり、今も瞳の色を理由に構造的に不利な立場に置かれ、差別や偏見と闘っているとしたら。私にとって「美青」はどんな意味を持つだろう。

 ただの美容だよ、と私よりも薄い色の瞳の人は言う。「私たちの目だって青じゃなくて灰色だしね。でも誰も茶色や黒を差別なんてしてないよ。“美青”は、ただの好みだよ」と。

 あなたの目は、肌は、何色ですか。何色だったら、美しいのでしょうか。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年9月7日号