◆行政頼みはダメ、自分らで変える◆


 祝島出身で、北海道でオーガニック肉牛の牧場を営んでいた氏本長一さん(60)も、このプロジェクトの核を担うキーマンだ。4年前に祝島にUターン。現在は放牧豚を使った有畜複合農業に取り組んでいる。祝島にはかつて山の傾斜を利用した棚田が多く見られたが、現在は島民の高齢化もあって、その多くが荒れ地となっている。氏本さんはその荒れ地に電柵を張り、豚を放して草や根を食べさせた。

 「人間の手はほとんどかかっていません。トラクターで掘り起こしても残る葛の根も、豚は鼻先で掘り起こしてきれいに食べてしまいます。豚によって耕された土地は田畑として見事によみがえります」(氏本さん)

 豚たちのエサは、毎日氏本さんが各家庭を回って集める野菜くずや魚などの生ごみ。これに小麦のふすま粉をまぜて豚たちに食べさせる。食事は1日1度。質素な食事と放牧による運動で、普通の豚よりも成長は半年ほど遅いが、その肉はほどよく引き締まり、内臓罹病率はゼロ。質のよい肉は西麻布のフレンチレストランに契約出荷されている。

 昨年秋には、広島市からIターンで島にやってきた芳川太佳子さん(36)が、祝島の食材だけを使ったメニューが食べられる「こいわい食堂」をオープンした。ここでも氏本さんの豚は人気メニューとなっている。

 「エネルギーは電気やガスだけじゃない。水や食べ物も、祝島の中だけで循環させることができる。自然エネルギー自給自足というシンボリックな話も今の祝島には重要だけど、食事や水など、個々の暮らしの中にかかわるもののクオリティーを高めることも、広い意味での持続可能なエネルギーに入るんじゃないかなと思います」(氏本さん)

 島民の会の山戸会長の息子、孝さん(33)もUターン組だ。孝さんは言う。

 「原発に関して、行政にいくら働きかけても状態を変えることはできなかった。だったら自分たちが変えていくしかないと痛感しています。僕も一度島を出て戻ってきましたが、慣れない中で始めた無農薬のびわ栽培も軌道に乗り始めている。新しいプロジェクトが始まったことで、島にもUターン、Iターンで若い力が集まり始めている。将来的にはエネルギーだけでなく、島が経済的にも自給自足できる状態を目指したい」

 「反原発」から「脱原発」にシフトチェンジした祝島のプロジェクトは、島民たちの強い思いに支えられている。 (岩崎眞美子)
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ミツバチの羽音は「口コミ」◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 映画「ミツバチの羽音と地球の回転」は、「ヒバクシャ」「六ケ所村ラプソディー」で、被曝や原子力発電所、使用済み核燃料再処理工場の問題にスポットをあてた鎌仲ひとみ監督の最新作。上関原発建設問題に揺れる祝島と、電力自由化のもとで自然エネルギーを積極的に取り入れているスウェーデンを取材している。

 タイトルの「ミツバチの羽音」には「口コミ」の意味がある。映画を見た人がミツバチがぶんぶん飛び回るように、自然エネルギーの問題を多くの人につなげてほしい。そんな思いが込められている。

 エネルギー自給率4%と言われる日本だが、実は自然エネルギーにおいては無限の可能性があることに気付かせてくれる映画だ。

 各地で自主上映会などが開かれているが、現在、渋谷ユーロスペースにてロードショー上映中。映画公式HPは、http://www.888earth.net

週刊朝日

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