半世紀ほど前に出会った98歳と84歳。人生の妙味を知る老親友の瀬戸内寂聴さんと横尾忠則さんが、往復書簡でとっておきのナイショ話を披露しあう。
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■横尾忠則「健康生活には脱『メンドー臭い』」
セトウチさん
京都の夏の暑さは格別ですね。一度祇園祭の見物に行ってまいっちゃいました。冬の寒さよりは、初夏生まれのせいか、夏の暑さは、かなり平気のはずです。子供の頃、夏休み中は宿題などほっぽり出して、一日中、小川で魚獲(と)りか、川で泳いでいました。黒ん坊大会では、皆んなで競い合ったものです。そんななごりが抜けず、インドやスペインで40度以上の灼熱(しゃくねつ)の太陽の下で、現地の人間のように真黒になるのが嬉(うれ)しくって。
ところが、ここ数年、毎年のように熱中症になっています。昔と違って真夏はほとんど炎天下に出ることはないのに、屋内でも熱中症になります。美術館でもなりました。作品に熱中したせいですかね。病院でも点滴を受けるほど重症になったこともあります。
最初に熱中症になったのはバリ島でした。まだ熱中症という言葉のない頃ですから、日射病だと思っていましたが、今思えばあれが熱中症の始まりだったんですよね。僕は熱中症によく似た症状で、過呼吸にもなります。去年も総合病院で手の指のレントゲン撮影中に倒れました。病院側は夏場なので、てっきり熱中症と決めつけて、車輪付タンカに乗せられて院内の廊下を走りまくって、内科で熱中症の治療を受けましたが、僕の自己診断では、レントゲンのストレスによる過呼吸だと思いました。やはり病院の誤診でした。
こーいうことはよくあります。石和温泉の旅館で山菜を食べたら、舌がしびれたので、救急車で隣町の病院まで連れて行かれて、そこで脳のMRI検査をされました。「脳じゃない、違う!」と叫んでも、温泉街から救急車で運ばれる患者は、大抵、脳梗塞と決めつけるのです。断ればいいのに、メンドー臭いのでマ、いいか。「山菜で舌がしびれている!」と言っても、脳梗塞(こうそく)の症状だ、と言ってきかない田舎の総合病院での誤診による災難でした。旅館に帰った頃は、食べ始めたばかりのお膳がすっかり片づけられていました。