「週刊朝日」(4月30日号)の発売日であった4月20日。渡邉美樹氏が理事長を務める中高一貫の郁文館夢学園(東京都文京区)のホームページに、新たにある「文章」がアップされた。〈週刊朝日の報道について〉と題されたボタンをクリックすると、渡邉氏の名前で以下の文面が綴られている。いささか長いが、主要部を引用しよう。
〈同記事は、悪質な誹謗中傷に基づく全く事実無根のものでありますが、教育者の一人として皆様にご心配をおかけした事をお詫び申し上げます。
 同記事の内容につきましては、事実無根であると同時に、記事のニュースソースであるK氏なる人物は、当学園の理事、および職員に対して暴力事件を起こし、その件につきまして現在、刑事告発されている人間であります。さらに、元常務理事の石田氏の辞任につきましても、同氏が紹介したK氏が暴力事件を起こすという学園にあるまじき事態を起した為に、その責任を取り、自ら辞任したものであり、同氏の辞任は、今回の報道内容とは一切関係ございません〉

 本誌は先週号で、同学園の常務理事・石田勝紀氏(41)による不可解な電撃辞任劇をリポートした。
 その石田氏は複数の学校関係者や友人に、辞任に至った経緯や理由を伝えている。
 石田氏の話によれば、きっかけは学内の女性からの相談だった。その女性は渡邉氏と数年にわたって不倫をしていたのだが、突然、別れを切り出されたことに納得がいかないと語っていたという。
 その女性は学校の取引業者であるK氏にもメールで相談していた。女性の意向を受けて、K氏が渡邉氏と話し合いの場を持とうとしたこともあった。
 結局、2月に起きたK氏の「暴力事件」に対する渡邉氏の対応も相まって、石田氏は愛想を尽かした--と、石田氏は周囲に語っている。
 一方、本誌の記事が「事実無根」だという渡邉氏は、石田氏本人に連絡して辞任理由を聞くこともせず、自身の"憶測"を流布しているとしかみえない。
 渡邉氏が言う"記事のニュースソース"には、K氏以外に石田氏と交友のあった学校関係者や知人もいる。石田氏自身も本誌の直撃に、女性から渡邉氏との不倫についての相談があったことを認めた。
 さらに本誌は、K氏の証言だけでなく、渡邉氏や女性がK氏に送ったとされるメールについても検証している。
先週も報じたとおり、K氏の携帯電話には、女性から送られたとされるメールが44通、渡邉氏からは7通残されている。たとえば、女性がK氏に送ったとされるメールには、渡邉氏にフラれたことへの憤りがこう記されてあった。

〈かれの方から特別な関係をもとめ、猛烈にアプローチしてきて、私との未来を語り... 何度も一時的な感情でないかと疑ってかかる私に対しても●●(原文は女性の本名)のことは全て知っていて、他の女性とは違う特別な人といわれその言葉に心を奪われてしまい(略)私と同じ思いをする女性が今後いないことを望みます〉(2009年12月7日)

〈私がどんなに安定した生活をしていて、自分がそれに介入して全て壊し、しかも私のことを捨てたという自覚がないのか、彼の得意な馬鹿なふりをしている(略)私を自分の絶対特別な離婚が成立すれば再婚する相手として私の人生に介入してきた〉(12月18日)

 これらの内容からは、渡邉氏が離婚をちらつかせて女性と不倫関係を育みながら、一転して、その約束を反故にして関係を絶ったかのような状況が読みとれる。
最終的に女性が渡邉氏と話し合って「もう大丈夫」とK氏に報告した翌日、渡邉氏からK氏に送ったとされるメールには、こう書かれていた。

〈昨日すべて解決しました けじめをつけさせていただきました ご心配をおかけしました〉(12月22日)

 本誌の取材に渡邉氏は、こうしたメールの存在を完全否定し、K氏がいかに胡散臭い人間で、学園が恐怖にさらされているかを滔々と語った。女性の代理人弁護士も不倫関係やメールについて否定している。
 が、言うまでもないことだが、本誌が問題提起しているのは、渡邉氏が教育者として、伝統ある学校法人の理事長として相応しくない言動をしていたかどうか、である。
 渡邉氏の反論の骨子は、

 ・女性と不倫はしていない
 ・女性による石田氏らへの相談もない

 という2点に集約される。その根拠となるのが、
 「メールは送ってない。だから偽造されたものだ」
 という主張である。

◆IPアドレスを透視されたかも◆
 渡邉氏は4月9日、本誌の取材に応じた際、12月22日付のメールを見ながら、いちだんと声を張り上げ、こう首をかしげてみせた。
「なんだろ、これ。わかんない。気持ち悪いですね。こんなことまでして、仕掛けようとしてるのかな。(略)僕はメールを送ってないから、それが存在するわけがない。彼女もメールを送ってないって言ってる。彼女に妄想癖があるのか、ウソついてるかどっちかなら別ですよ。でも僕は両方とも違うと思う。すべて偽造でしょう。そんなもの、いくらでも作れるんじゃないの? できないわけないから、偽造できるってことをちゃんと調べてください」
 ならば、と本誌はメール偽造の可能性について検証した。あるIT技術者が言う。
「メール送信者の名前やアドレスを偽造するのは簡単です。でも、メールに付随する『メールヘッダー』という情報を獲得すれば、たいていの偽造は見破れる。印字されたものではダメ。プリント前に改竄されないように、受信されたメールサーバーから直接ヘッダーを取り出すことも大事。サーバー内のデータは、さすがに改竄できませんからメール本文や送信者の真偽が確認できます」
 K氏が使っているのは、ソフトバンクの携帯電話「iPhone」。一方、渡邉氏と女性がメール送信したとされる端末は、NTTドコモの携帯電話だった。
 iPhoneはソフトバンクのメールサーバー内に、送受信したメールが保存される仕組みになっている。パソコンのメールソフトと接続させると、K氏個人のメールをサーバー内から直接、読み出すことができる。そこから本文とメールヘッダーを取り出せばいいのだ。本誌はK氏から携帯を借り受け、IDとパスワードを教えてもらい、渡邉氏と女性から届いたとされるメールの検証を進めた--。

「偽造でないのは一目瞭然です」
 ヘッダー情報を見るなりこう語ったのは、ITセキュリティーに詳しい独立行政法人「情報処理推進機構」研究員でサイバー大学IT総合学部准教授の園田道夫氏である。
「よく見てください。ドコモのメールサーバーがソフトバンクのメールサーバーと直接、通信(=メールの送受信)したことが記されています。ドメイン名の偽造例はあるが、続くIPアドレスはほとんど偽造不可能です。IPアドレスを調べると、実際にドコモに割り当てられている領域であることは間違いない。となると、ドコモのメールサーバーに何か欠陥がない限り、送信者のアドレスを偽造することもできない。これが偽造だとしたら、メールサービスの根幹にかかわる事件ですよ」
 専門的で理解するのが難しいかもしれないが、要は、K氏を含めて他人が渡邉氏になりすましてK氏の携帯にメールを送ること、つまりメールの偽造は、ほとんど不可能だというのだ。
 確かに、いわゆる「迷惑メール」には偽造メールが多いのだが、そのメールヘッダーを確認すると、いくつものサーバーを経由しているのが特徴だ。それに比べ、今回のメールは、二つの通信業者のサーバーが直接やり取りしていた。園田氏が続ける。

 「ドコモとソフトバンクのサーバーは、最初に『ハンドシェイク』と呼ばれる接触をし、互いのドメインやIPアドレスが本物らしいことを確かめてから初めて通信に入る。このメールを偽造するには、IPアドレスを偽装する必要があるのです」
 それは、かなり高度な技術を要することだという。
「つまり、インターネット上でドコモサーバーになりすまし、ソフトバンクのコンピューターをだますことが必要になる。それは、大規模なネットワークハッキングであり、国の一大事業レベルと言っていい。メールヘッダーの入手経緯とあわせて考えれば、偽造は99・99%の下にいくつも9がつくほど不可能なことです。何万歩も譲って、一時的にドコモのIPアドレスが偽装されたとすれば、同じIPアドレスを持つコンピューターがネット上で複数存在する異常事態となり、携帯メールが届かないなど大規模な通信障害が起きるはず。これまた大事件ですよ」
 念のため、一連のメールの送信時期に何かしらの通信障害が起きていないか尋ねると、
「その時期に、特段のトラブルは確認していません」(NTTドコモ広報)
 とのことだった。
 本誌は4月13日、ワタミ社長室長で郁文館夢学園の広報担当理事も務める中川直洋氏に、これらの取材結果を伝え、15日にはメールヘッダーのコピーも提供した。その上で中川氏に、渡邉氏の発言の信憑性について問うと、
「ワタミの技術者は偽造できると言っている。メールについて自分で調べて対応する」
 と言う。本誌は、その後も1週間以上にわたって電話やメールで繰り返し返答を求めた。その間に中川氏が主張したのは、こんな事柄だ。

「女性からの携帯メール(1通)にパソコンで使う署名クレジットが入っているのは不自然。おかしい」
「Kは『透視できる』と言っていたから、IPアドレスも透視したのかも」
「携帯を他人に操作された可能性だってある」
「技術に(偽造できるような)革新があると信じてる」
「もう弁護士マターだ。弁護士にコメントしないよう指示された。メールヘッダーについても、もう何もコメントすることはない」

 そして締め切り間際の23日になって、中川氏はメールで以下のように答えてきた。

「携帯電話のメールの偽造はできると認識しています。(本誌の主張に対し)ITにおいて100%はないというのが当方の主張であり、不正操作については『絶対』の断定はできないと考えています」
「(本誌が見せたメールのプリントアウトの一つについて)学校関係者から送られたK氏へのメールが、個人の携帯電話から送られていたにも関わらず、学校の署名(学校名、住所、電話番号が入ったもの)を送るという極めて不自然なメールだった。そんなメールまで証拠として提示しているのであって、これらの状況から、当方としては、偽装の可能性を全面的に排除しているという週刊朝日の姿勢に問題があると考えています」

 渡邉氏は常々、会社や学校で「ウソをつかず、誠実であれ」と教えてきたことをアピールしてきた。だが、自分自身はどうなのか。
 冒頭の文書は、
〈どうか無用のご心配なきよう、心よりお願い申し上げます〉
 と締めくくられている。それならば、堂々と偽造を証明すべきではないか。

週刊朝日