●装備の充実より同盟の形が重要


 日本は4隻のイージス艦と16の高射隊、高性能のレーダーなどを展開してミサイルの攻撃に備えている。BMDはミサイルをどこまで防いでくれるのか。
 久間章生・元防衛相は、
 「相当精度が高くなっている。フライを野手が捕るような感じです」
 と自信を見せるが、"エラー"は常に起こり得る。
 そこで、相手に明らかな発射の兆候があれば、撃たれる前に自衛隊で敵の基地を直接たたいてしまえばいいと主張する人たちもいる。
 だが、いまの自衛隊の装備で、北朝鮮などの基地を攻撃することは不可能に近いというのが、軍事専門家の一致した見解だ。
 航空自衛隊のF2戦闘機に対地誘導弾を搭載すれば、北朝鮮まで到達することはできる。ただし、相手のレーダーサイトを妨害する電子戦機など、必要な戦力が欠けているので、
 「無防備に相手の防空網に飛び込んでも、餌食になるだけ。どうにか敵の基地までたどりついても、少数機では大きな効果は望めない。特攻に行くようなものです」(空自幹部)
 日本はこれまで専守防衛を理念としてきた。他国を攻撃する兵器は、「自衛のための必要最小限度の範囲を超える」と保有を認めてこなかった。自衛隊に"攻撃力"がないのは当然なのである。
 「でも、憲法解釈上は、敵基地への攻撃は自衛の範囲に含まれます。座して死を待つ必要はない。弾道ミサイルを撃ってくることが明らかならば、相手国の発射基地をたたくのは当たり前でしょう」
 前出の中谷氏はこう話し、時代が変わったのだから、長距離爆撃機や空母など攻撃力のある兵器の保有も考えるべきだとする。
 これに対し、「装備だけをそろえても意味がない」と言うのは、軍事アナリストの小川和久氏だ。
 小川氏によると、ノドンは移動式の発射台に搭載されている。確実に破壊して発射の意図をくじくには、攻撃可能な航空戦力や弾道ミサイル、トマホーク巡航ミサイルなど攻撃用兵器を備えたとしても、多大な犠牲覚悟で特殊部隊を数百人規模で現地に潜入させ、発射台の位置を把握する必要があるという。
 「そこまでして自前の攻撃能力にこだわるより、日米同盟を本当に機能する形にするほうが大きな効果が見込める。日本のどこが攻撃されても、在日米軍が必ず反撃してくれるように、細かい点まで詰めるべきです」(小川氏)
 北朝鮮は、核開発というさらに危険な動きも加速させている。
 11月12日には米核物理学者に、寧辺(ヨンビョン)に新設した核兵器製造にもつながるウラン濃縮施設を公開した。
 「2千基の遠心分離器など最先端の施設を見せることで、プルトニウムだけではなくウラン濃縮もやるぞとメッセージを送った。それによって対米交渉でのカードをまた一枚、積み上げたのです」(国際政治アナリストの菅原出氏)
 北朝鮮の咸鏡北道豊渓里(ハムギョンブクトプンゲリ)付近では、核実験用とみられる地下トンネルの掘削も確認された。日米韓など関係国は、06年10月と09年5月に続く3度目の核実験を準備している可能性があるとみて警戒を強めている。
 朝鮮半島情報誌「コリア・レポート」の辺真一(ピョンジンイル)編集長は、この核が使われる最悪のシナリオを次のように予言する。
 「軍事境界線付近での銃撃などをきっかけに、南北が全面戦争に突入すれば、北朝鮮は最後の手段として弾道ミサイルや核兵器を使うでしょう。日本や韓国に向け配備されたミサイルに核弾頭が積まれていれば、米国でも対処は不可能です」
 こうした"破局"を避けるうえでも、北朝鮮に影響力を持つ中国の動きに期待が集まっているが、辺氏の視線は厳しい。
 「北朝鮮はキューバ危機を見て、大国は自らの国益のために小国を犠牲にするものだと思っている。中国のことも信用していません」
 孤立感を深める「暴走国家」がすぐそばにある以上、日本の「迎撃力」を高めることは焦眉の急だ。

週刊朝日

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