菅さんの主張する「日米合意の順守」は、一般に思われている以上に日米関係の危機を内蔵しています。沖縄情勢の厳しさを過小評価しているからです。
 11月28日の沖縄県知事選で、仲井真弘多知事が再選され、辺野古移転で政府と合意したとしても、沖縄県民の80%以上が辺野古移転に反対している中での強行突破は、まず不可能です。菅さんができるできると言い続けてできない時の、米国の対日不信は極めて大きくなります。
 米軍にとって、嘉手納、横須賀、佐世保、三沢などの基地は世界で最も重要です。財産代替価値(PVR)でみれば、普天間基地は在日米軍基地全体の20分の1にも達していません。米国内には、普天間問題の解決を強行することで、在日米軍全体に悪影響が及ぶことを懸念する勢力が存在している。こことの合意が図れる可能性は十分あります。
 海兵隊が抑止力として必要という説も、個別に一つずつ検証すると説得力がありません。
 海兵隊は日本に対する核攻撃の抑止とは関係がない。尖閣諸島についても島嶼防衛の責任は日本にあり、海兵隊がすぐ参加することは想定されていません。
 では、小沢さんはどうか。
 小沢さんは「(辺野古案に代わる)具体案はない」と発言して、批判されています。しかし、重要なのは、普天間基地移転の代替地を提示することだけが解決策のすべてではないということです。
 沖縄県内移転が無理という前提に立ち、それでも在日米軍全体、日米関係全体を悪化させないかたちで日米合意ができれば、実現が極めて困難な「日米合意の順守」に執着するよりはるかに良い。これは案の有無ではなく、どこまで覚悟をもって外交努力をするかの問題です。
 また、米国が自ら普天間から手を引く余地はある。
 米国は海兵隊の主力輸送ヘリの後継機として2012年からオスプレイ(垂直離着陸輸送機MV22)の配備を計画していますが、騒音などを考えると普天間配備は困難が伴います。
 辺野古への移転が困難なら、グアムなど他の基地への移転を自ら選択せざるを得ないかもしれません。
 沖縄県民の意向を踏まえて解決せざるを得ない、という小沢さんの主張は、日米関係の危機をより小さくするという点でも、菅さんが主張する「日米合意の順守」より優ると思います。

週刊朝日