ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、好きな音楽と異名について。
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原稿書きに疲れたとき、ユーチューブでロックを聴く。パソコンにボーズのアンプとスピーカーシステムをつないでいるから音はけっこういい。
よく聴くのはブルース系のロックとハードロック。クラプトンやツェッペリンやデフ・レパードといった70年代から80年代のものが多い(というより90年代以降のロックはほとんど知らない)。
中学二年のころから洋楽を聴きはじめた。プレスリーの初期全盛時代だったが、その曲はどこかぴんとこなかった。いま思えば当時の洋楽はポップスとロックンロールばかりで、ロックではなかった。それでも毎日、夕食のあとは部屋にとじこもってラジオにかじりつき、全米のヒットチャート(ビルボードとキャッシュボックスがあった)にランキングされた曲をオープンリールのテープレコーダーに録音して、来週はどの曲がベストテンに入るかと予想したものだった。
ビートルズをはじめて聴いたのは中学三年のときだった。それまでの全米ヒットチャートにはない新しさを感じて好きになり、ラジオに流れるビートルズはみんな録音した。
高校に入るとローリング・ストーンズも流行(はや)りはじめて、クラスの洋楽好きはビートルズ派、ストーンズ派に二分された(──にしても、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』と『アビイ・ロード』は名盤です)。
高校を出てめでたく浪人になったころ、ブラッド・スウェット・アンド・ティアーズを聴き、そのメンバーだったアル・クーパーを追いかけはじめた。『スーパー・セッション』『アイ・スタンド・アローン』といったアルバムをレコードの溝がすり切れるまで聴き、同じブルース系のマイケル・ブルームフィールドやジャニス・ジョプリン、フリー、コールド・ブラッドなどのロックと、B・B・キングなどのモダンブルースをブートレグまで探して聴きあさった。