僕も気がよく変りますが、僕の場合は僕が変えるのではなく、運命自体が変るので、僕はそれに従うだけで、僕に責任はありません。それとセトウチさんの長寿の秘密は好きなことをするだけではなく、本質的に我がままです。その我がままが長寿を約束するのです。我がままとは我れのままで自然体のことです。もう、こんなに長生きしたら恥ずかしいとか、何んとか言いながら、結構、我れのままを通しておられるので、そうは簡単に死ねません。
それと、セトウチさんのもうひとつの才能は、あまり考えないところです。頭のいい人は考えに溺れます。三島さんは考え過ぎて死にました。セトウチさんの長寿の秘密のもうひとつはここにあります。セトウチさんがバタンQで眠っちゃうのはあれこれ考えをこねくりまわさないからです。そして今度は絵を描きます。また長生きしてしまいます。なぜなら絵は考えちゃ描けないからです。考えないで、知性を超えます。
あーアア、また死が遠ざかりました。どうしても死にたくなられたら、絵を止めれば、パタンQと死ねます。尊厳死です。でも最早、絵の悪魔にとりつかれてしまっておられるので、当分、死ねません。諦めて下さい。ではまた来週。
■瀬戸内寂聴「気短な私が、秘書たちと絵に熱中」
ヨコオさん
気短(きみじか)で浮気っぽい私が、まだ絵に熱中していて、いつでも描けるように、キャンバスや絵具(えのぐ)を、部屋の中央にひろげています。
私にならって、秘書のまなほも、その妹のますみも、私より情熱的に絵筆を探っています。ふたりとも、なかなか絵の才能があるみたいです。でもうっかりほめたら、私よりいい気持(きもち)になり、本来の仕事なんかすっかり忘れて、自分の絵に熱中するので、私はつとめて無視した様子をしていますが、平静な気分ではありません。二人とも私より上手な気がするからです。
超おしゃべりな三女が、絵を描いている間だけは、口もきかず、部屋はひっそりとしています。誰が一番うまいかと見れば、わが絵もふくめて小学生並みというところでしょう。