

「ラストレター」と同じ原作で、舞台を中国に移した映画「チィファの手紙」。“死”が結びつけた人と人との切なる思い。震災をきっかけに、この映画は生まれた。岩井俊二監督が撮影の舞台裏を明かす。
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あのときにどこか似ている。そう思った。世界中で、新型コロナウイルス感染症が猛威をふるいはじめた頃。ふと、東日本大震災で、郷里である宮城県が津波に直撃されたときのことを思い出していた。
「2011年の3月、僕はロサンゼルスに滞在していて、地震のあったときは、ちょうど、東京にいるスタッフと電話で打ち合わせをしている最中でした。ものすごく大きい地震が来たというので、ニュースチャンネルをつけると、震源地が僕の郷里の宮城県沖だという。宮城の家族とも2~3日連絡が取れなくて、その間に津波のショッキングな映像も次々と目に飛び込んできたので、とにかく心配でした」
災害の直撃を受け、不意に大切なものを失ってしまったとき、人々の心はどれほど深い傷を負ってしまうのか。経済や人々の暮らしのみならず、ダメージを受けた精神は、どうやって再生していくのか。東日本大震災によって、それまでの映画の中にメッセージとして忍ばせてきた死生観を、あらためて考え直すことになった。
「今回のコロナも、あのときの津波のように人々をのみ込んでいくのかと思って最初は怖かったですが、映画というジャンルに関しては、いろいろと打撃は受けたものの、必ずしも直撃はされなかったように思うんです。撮影の際に、人と人との接触がままならなかったりはするけれど、リモートなど、まだやれる手駒は残されていたので」
本当なら、2020年は映画を撮影する予定はなかった。それが、急遽「8日で死んだ怪獣の12日の物語」を制作することに。この作品は、7月末からミニシアター系で公開され、1800円で24時間ストリーミング可能なオンライン上映も行っている。
「昔から、何か新しいことに挑戦したい意識が強いんですよね。『怪獣』も、映画人として、このコロナというハードルを乗り越えていかないと、と思って生まれたものです」