


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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アラン・ドロンを骨太に、ワイルドにしたかのようなルックスと存在感。すでに本国イタリアで多くのファンを持つルカ・マリネッリ(35)は、世界的に注目されている俳優だ。『野性の呼び声』で知られるアメリカの作家、ジャック・ロンドンの原作を、舞台をナポリに移し映画化した「マーティン・エデン」により、昨年のヴェネチア国際映画祭で男優賞に輝いた。
ナポリの貧しい階級出身のマーティン・エデンは、過酷な労働を繰り返すが、ブルジョア階級の娘に出会い、新しい世界を知る。旺盛な好奇心で作家として覚醒する一方、偏見や不平等に対する社会的な意識を持つようになる。
監督のピエトロ・マルチェッロは、マリネッリに惚れ込み、脚本を当て書きした。エデンが悲恋を経験しながら作家として認められるものの、成功とともに社会や人生に希望を失っていく様子が描かれる。その道程は胸を締め付けるほどに激しく、せつない。マリネッリは、主人公をこう分析する。
「彼は純粋で情熱的で、冒険家だ。人生に向き合い、世界を旅しながら新しいことを発見し、自分を取り囲む現実を見つめる。文化の美しさに心打たれ、自分もそこに到達しようと目標に向かって前進する。でも、その途中で多くの失望を経験し、やがて自分を見失ってしまうんだ。いわば成功の犠牲者と言えると思う」
社会の底辺から出発した作家としての苦難の道のりに、エデンをロンドンの分身だったと見る者もいる。マリネッリもそのひとりだ。
「エデンはジャック・ロンドンのように、心に暗い面を抱いている。この本はロンドンにとって、自己批評だったと僕は思っている。自分自身を皮肉に描くことが、彼にとってセラピーだったのではないかな」
あなた自身が成功の犠牲者と感じたことはあるか? と尋ねると、シリアスだった彼の表情がとたんにほころんだ。