元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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コロナ騒ぎと関係のない話で恐縮だが、我らはコロナを避けるために生きているわけではないのでありまして、それじゃあ生きるって一体どういうことだっけと思わず考えたりしているんだが、先日、ついにその答えを発見した(ウソ)。いやね、要するにコロナと関係なくオオと感動したことがあったので思わず書くというだけなんだが。
私の主要な趣味の一つに「見切り品を買う」というのがありまして、ダメと烙印を押された物を救い出すヒーロー気分に浸れるのと、思わぬ掘り出し物に出会うギャンブル性とがやめられぬポイントである。
で、先日巡り合ったのが大量のブラウンマッシュルーム。デカイ袋に詰まって150円。もちろん買いましたとも! ただ「中が黒いのでお早めに」との但し書きつきで、確かに帰宅し改めて見ると相当黒い。さりとて一人暮らしだしお早めに食べきることもできず、冷蔵庫もないし、いつもの「干す」作戦に。キノコは干すのに最適食材ですからね! とはいえ黒くジクジクしたやつでも干せるのか? だがもう買っちゃったし物は試し。丸ごと竹串に刺して1週間ほど放置すると、ますます黒くなりキューッと縮んでいる。異な姿ではあるが腐っているわけじゃなさそうだ。
というわけで「簡単パエリア」を作った際、出汁代わりに放り込んでみることにした。串から外してスライスを試みたが、ゴムのようにネッチリ硬くて包丁が全く入らない。仕方なく丸ごと投げ入れる。で、食べてみたわけです。
そうしたらですね、イヤなんというか独特の……どっかで遠い記憶があるような……そうトリュフだよ! 見切り品のマッシュルームがまさかのトリュフ! 現代の錬金術? あまりの展開に、そういえば私トリュフなんていつ食べたんだと思い返すも記憶がないくらい昔。なので本当にトリュフなのかわからんが、自分で食べるんだからそういうことにしておこう。ちなみにトリュフは雄豚のフェロモンに似た香りなので雌豚が探すらしいです。ブヒブヒ。
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2020年9月21日号