そして、少しでもいい兆候が見られたら、「よくできた。よかったぞ」と声をかける。うそやごまかしなしで、心からほめることができると、教える側もよろこびを共有できます。

 選手は困難な状況を乗り越えると、一つ上のステージに上がっていきます。これまで、そういう経験を繰り返してきました。北島康介は2002年8月、パンパシフィック選手権横浜大会の100メートル平泳ぎで国際大会初の金メダルを獲得した後、ひじ痛の悪化で200メートル平泳ぎを棄権しました。そこから万全な状態に近づける努力を重ねた結果、10月の釜山アジア大会の200メートル平泳ぎで初めて世界新記録をマークしたのです。

 全国各地で競泳の大会が再開しています。コロナ禍で泳げない時期があったにもかかわらず、ふだんやらなかったランニングを取り入れたり、自宅でトレーニングに励んだりして、記録を伸ばしている選手が多くいます。逆境をばねにするたくましさを感じて、心強く思っています。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

週刊朝日  2020年9月25日号

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