踏切の両側には交差点を示す信号機がある。左側は通常の青ではなく、一旦停止して安全確認をしてから発進を示す赤点滅である。約40秒続いたのち、注意喚起の黄色、停止の赤固定に変わると、交差する歩行者用の信号が青に変わる。踏切が鳴動しなくてもこの状況なので、警視庁は事故防止に細心の注意を払っているようだ。踏切が鳴動すると、明治通りは赤固定信号、歩行者用は青信号が延々続く。遮断機が上がると、信号が変わる仕組みになっている。
東あずま(ひがしあずま)は、素朴で庶民的な駅舎が昭和の風情を感じさせる。日中はここで上下列車が顔を合わせる。単線でいう「行き違い」ではないが、複線でも走行中にすれ違う機会が少ない珍しい路線である。
隣の亀戸水神も含め、東京23区内では珍しく、駅舎から隣のホームへ渡るための構内踏切が存在する。地下道や橋上駅舎を建設する余裕がないようだ。これが幸いし、先述した「各駅の駅舎の佇まい、沿線の下町情緒たっぷりの町並み」につながったといえよう。
亀戸水神を発車すると、右へ曲がり、総武本線に合流する。亀戸付近の踏切の近くにトンネルがあり、踏切が鳴動中はここで涼む人が多い。
亀戸が近づくと、ほのぼのとした町並みから一転し、都会の雰囲気となる。それもそのはず、総武本線の各駅停車は10両編成、快速は11両もしくは15両編成で運転されているのだ。たった数百メートルで、町並みが激変するのだから、東京という街の不思議さを物語る。東京23区内でありながら、列車を乗り換えるだけで町並みの激変を楽しめるのが、亀戸線の旅の魅力である。
■亀戸からの連絡きっぷに注目
亀戸線亀戸駅を見ると、JR線・千代田線の連絡きっぷ運賃表が目にいく。亀戸~北千住は東武経由で、東京メトロ千代田線綾瀬、JR東日本常磐線亀有~取手の乗車券を発売しているのだ。
隣のJR東日本の運賃表(きっぷの運賃)と比較すると、
北千住:東武経由200円/JR東日本経由220円
と東武経由が安い。
一方、
綾瀬:東武経由340円/JR東日本経由310円
松戸:東武経由420円/JR東日本経由400円
我孫子:東武経由680円/JR東日本経由650円
と、綾瀬~我孫子ではJR東日本経由が安い。
しかし、その先になると
天王台:東武経由680円/JR東日本経由730円
取手:東武経由770円/JR東日本経由820円
と、東武経由の方が安いのは意外である(連絡きっぷの運賃表は取手まで)。こういう違いはレールファンにとって興味深いところだろう。
東京都は2020年10月1日から、Go Toトラベルの対象に入る予定だ。しかし、今も遠くに出かけることを心配している人も多いだろう。そんな今だからこそ、亀戸線を散策し、路線の刻んできた歴史や下町情緒を肌で感じる旅はいかがだろうか。(文・岸田法眼)
岸田法眼(きしだ・ほうがん)/『Yahoo! セカンドライフ』(ヤフー刊)の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして、『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人刊)、『論座』(朝日新聞社刊)、『bizSPA! フレッシュ』(扶桑社刊)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』(アルファベータブックス刊)がある。また、好角家でもある。引き続き旅や鉄道などを中心に著作を続ける。