現役を引退したときも思うように動けない自分がいて、こんなんじゃあ天龍源一郎じゃないし、家族に何かあったときに守れなくなるのも嫌だったから身を引いたんだけど、でも、今となっては女房や娘にからだがあまり芳しくない天龍源一郎に気を遣わせているのが悔しいね。いろいろ気を遣ってくれることに対して「そんなに気を遣わなくていいんだよ!」と怒りっぽくなる一方で、「ありがとう」という気持ちも大きい。難しいところだね(苦笑)。
あれだけ飲んでいた酒も今はあまり飲まなくなった。このご時世で出かけなくなったというのもあるのかな? 以前は家にずっといるとイライラ、ソワソワしてきて夕方頃になると女房から「どこかに飲みに行って来なさいよ」と言われていたのが、すっかり家で落ち着いてしまっている俺がいるんだから不思議なもんだよ。家にいては映画や旅番組を見たり、競馬をやったりだね。
仕事はちょうどいい加減だね。代表(※娘の紋奈さん)がしっかり土日を空けてくれるから、趣味の競馬もできる。以前、具志堅用高さんとお会いした時に、土日は仕事のスケジュールを入れないようにしていると聞いて、そういう生き方もいいなって思って俺も真似するようにしたんだ。まあ、具志堅さんは土日にボクシングジムで指導をするから仕事を入れていなかったんだろうけど、俺は競馬だ(笑)。なにせ相撲もプロレスも土日こそ忙しい職業だし。思えば、中学生で相撲の世界に入って、小学生の頃は実家が農家だから土日のたびに農作業を手伝わされていたから、引退してようやく土日休みを手に入れたよ。相撲、プロレス時代はいつも何かに追われるような感じでダーッと過ぎていったから、今のように土日がちゃんと休みで趣味の競馬もやれているのは儲けものだよね。
さて、この1年間の仕事で特に印象深かったのは、やっぱり今年2月に行ったアントニオ猪木さんとトークバトルだね。猪木さんはライバル団体=新日本プロレスのトップだし、俺は1度戦って勝って、再戦もしていないから勝ち逃げ状態だ(笑)。猪木さんからしてみたら「他団体の奴が勝ち逃げしやがって!」というところだろうけど、そんなことおくびにも出さないで対談を受けてくれたうえに、俺の声真似までしてお客さんを魅了していた。猪木さんの周りには一度辞めて離れていった人もまた戻ってこさせる何かがあるんだよね。猪木さんはブラジルに渡って、力道山関に見いだされ、プロレスに来たという経緯があるからか、人間的に小さなことにこだわらなくなったんだろうね。