指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第37回は「チーム北島」について。
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2004年アテネ五輪で北島康介が平泳ぎ2冠を成し遂げたとき、泳法分析やウェートトレーニング、体のケアなどで、「チーム北島」と呼ばれた多くの専門家の支援を受けました。
「チーム北島」は01年に東京都北区にできた国立スポーツ科学センター(JISS)の研究員が中心メンバーでした。東大や日体大で教授を務めた浅見俊雄さんを初代センター長に迎えたJISSはオープン当初から、私が指導していた東京スイミングセンター(SC)の選手が積極的に利用していました。
JISSの研究員だった岩原文彦さんは東京SC出身の元選手で、私はJISSができる前から練習方法などについて助言を受けていました。日体大1年だった北島が200メートル平泳ぎで銅メダルを獲得した01年福岡世界選手権を終えて、翌年の目標について話し合ったとき、北島から「ウェートトレーニングを本格的に始めたい」という話が出ました。私から提案しようと思っていたことを本人が言い出したので、ひざをたたいてよろこびました。
岩原さんに相談したところ、「JISSにいい人がいます」とウェートトレーニングが専門の田村尚之さんを紹介してくれました。田村さんの指導で筋力アップに取り組み、世界のトップを争うための体づくりの基礎ができていきます。
北島は02年の釜山アジア大会の200メートル平泳ぎで世界新を出しますが、その前のパンパシフィック選手権をひじの故障で途中棄権することがあって、JISSでリハビリなどを担当していたアスレチックトレーナーの桑井太陽さんに体のケアをお願いしました。
競技力向上を目指すために設立されたJISSは、有能な人材が集まって本当に活気にあふれていました。私自身、JISSの研究者との交流は大きな刺激になりました。北島の成長に合わせて金メダルを取らせるために必要な要素が、ほぼすべてJISSの中にあった、と思います。