現在はアルコ―ル依存症の専門病棟を持つ精神科病院に所属し、自分自身の経験を生かしながら研究・治療に邁進(まいしん)する日々を送る。
「『お酒がやめられないのは自分の意思が弱いせい』と激しく情けなさを感じている人は多くいます。でも、意思のあるなしはまったく関係がありません」
河本さんはそう語る。
お酒を飲むと、「脳内モルヒネ」と呼ばれる快楽物質が作られ、「もっとお酒を飲みたい」という気持ちに駆り立てられる。
一方、肝臓ではアルコールを分解するアセドアルデヒドと呼ばれる物質が作られる。飲みすぎると頭痛や吐き気が起こるのも、このアセトアルデヒドの働きによるものだ。
酒量と比例してアセドアルデヒドが増えれば、飲酒にも自然とストップがかかる。しかし、お酒を飲んでもアセドアルデヒドが作られにくい体質の場合は歯止めがきかず、深い酔いの世界に突入していくことになる。いわゆる「依存体質」だ。河本さん自身がまさにそうだった。
アルコール依存症を克服することはできるのか。
「完全に依存症から抜け出すのは容易ではありませんが、別の欲望を見つけることで症状を安定させることはできます」
と河本さんは言う。
「僕は、お酒という手段を通じて妄想や自己愛の世界に浸っていました。自己愛を満たすには自分の書いたものを人に読んで評価してもらうのが有効だと思い、始めたのが論文執筆。断酒をしてから10年間で約50本を書きました。手近なところだと、SNSに投稿してたくさん『いいね!』をもらうのでもいい。お酒の代わりに欲求を満たせる手段を探すことから始めるといいと思います」(本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日オンライン限定記事