遺産をめぐって親族が口汚くののしり合う“争族”を防ぐには、どうしたらいいのだろう。そのための最善かつ唯一といっていい手段は、遺言書を残すことだ。
遺言書があれば、遺産は被相続人が指定したとおりに分けられることになる。トラブルが多発する「遺産分割協議」という話し合いをする必要もない。
法的に有効な遺言にはいくつかの種類があるが、一般的なのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」だ。「自筆」は文字どおり自分で書く遺言のこと。紙とペンと印鑑があれば、いつでもどこでも書ける。手軽で内容を秘密にでき、費用もほとんどかからない。『親に気持ちよく遺言書を準備してもらう本』(日本実業出版社)の著者で、行政書士の竹内豊さんが解説する。
「ポイントは、全文を自筆で書くことです。一部でも他人が書いたり、パソコンで作成したりすれば無効です。筆記具に規定はありませんが、最近はやりの『消せるボールペン』 は摩擦で文字が消えるので、使わないほうがいいですね」
手軽なだけに弱点も多い。偽造・変造や隠匿・破棄の危険があるため、信用力が低いのだ。このため相続の開始後に、家庭裁判所で内容を確認する「検認」の手続きを受けなければならず、これに約2カ月かかってしまう。その間、遺言の執行ができないのだ。
「公正」は、トラブルとは無縁の遺言書だ。公証人に書いてもらうため、原則、公証役場に行かねばならず、多少の費用や証人が必要になるのが短所だが、検認の必要がなく、すぐに遺言の執行に入れる。原本は公証役場で保管され、紛失の心配もない。竹内さんはまず「自筆」を作成し、「公正」に切り替えることを推奨している。
「子にしたら『公正』で残してほしいですよね。でも親にすれば、なじみのない公証役場に行ったり、遺言書の内容を公証人に話したりするのに抵抗を感じるでしょう。そこで、まずは『自筆』で残してもらい、タイミングを見計らって『公正』に切り替えてもらいましょう。一度書いていることで抵抗感も和らぎ、気楽に考えられるようになっているはずです」
※週刊朝日 2013年1月18日号