AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。
東京大学文学部の、阿部公彦、沼野充義(現・名古屋外国語大学副学長)、納富信留、大西克也、安藤宏の人気教授陣による白熱シンポジウムを記録した『ことばの危機 大学入試改革・教育政策を問う』は、“ことば”を入り口に現代社会の問題の核心に迫る一冊。編纂した共著者の安藤宏教授が、同著の魅力を語る。
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2019年10月19日、80年の歴史を刻む、東京大学法文2号館の大教室は、10~80代まで200人を超す聴衆を集め、熱気に包まれていた。本書の元となる、シンポジウム「ことばの危機 入試改革・教育政策を問う」が開かれていた。企画したのは、本の編纂(へんさん)にも携わった同大学文学部広報委員長の安藤宏教授(62)だ。
登壇者は司会を務めた国文学の安藤教授の他に、阿部公彦(英米文学)、沼野充義(現代文芸論)、納富信留(哲学)、大西克也(古代中国語)各氏の錚々(そうそう)たる教授陣。
「国語をめぐり起きている問題の本質は『ことばをツールだと思っている』ところにある。ことばがツールだとするなら、私たち人間もまたツールだということになる」(納富教授)
「国語の教育や試験で考慮されるべきは、いろいろな問題に対して『答えは一つでないこと』を文学ほどはっきり示すものはないということです」(沼野教授)
など、それぞれが専門の見地からテーマに切り込んだ。
シンポジウム開催時は、新たに始まる大学入学共通テストについて、英語民間試験と国語・数学の記述式問題導入に反対する動きがデモにまで発展していた。加えて、前年告示された新学習指導要領の高校国語に「論理国語」と「文学国語」が登場。実用文を重視し、文学の扱いが激減することも物議を醸していた。安藤教授は言う。