第2次大戦後、米国は世界で最も強く豊かな国で、世界の平和、秩序を守るという役割が米国民の自信と誇りになっていた。だが、経済が悪化し、グローバル化の中で移民や難民が急増し、しかも米国の人件費の高さから、多くの企業が工場を海外に移設させてしまった。トランプ氏は「世界のことはどうでもよい」「米国さえよければいいのだ」とホンネむき出しで、世界中から強く批判される主張をするしかなく、バイデン氏まで米国第一主義を打ち出している。

 地球環境問題などで資本主義自体の終焉の声が強まり、他者を排除する姿勢を強めているが、本来ならば、こうした姿勢を大批判すべきバイデン氏も実は姿勢は同じで、だから個人的な非難合戦になってしまっているのである。繰り返しになるが、両者とも、米国の明日のビジョンが示せないのだ。

 それと同様のことは日本でも言える。野党や、安倍首相に批判的なメディアは、いずれもアベノミクスを批判しているが、それに代わる案は打ち出せていない。

 ただ、トランプ、バイデン両氏が体を張った非難合戦を展開している米国の政治には、それなりの緊張感がある。それが私にはうらやましくさえ感じられる。

 日本の政治には、こうした緊張感がなく、だから安倍内閣は安心してスキャンダルを連発していたのである。

週刊朝日  2020年10月16日号

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数

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