幅広い層のファンから支持されている俳優・石田ゆり子さんがAERAに登場。出演した映画「望み」が公開中の石田さんが、現在の思いを語った。AERA 2020年10月19日号から。
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「貴代美さんの気持ちがものすごくよくわかるんです」
石田ゆり子が柔らかい声でその名を口にするとき、深い愛情と尊敬の念、一体感にも似た、心と心のつながりを感じる。貴代美は、公開中の映画「望み」で演じた、2人の子どもを持つ母親だ。高校生の息子がある日突然姿を消す。そして殺人事件が起き、息子の関与が疑われる。息子は被害者なのか、それとも加害者なのか。観ていて胸が苦しくなるが、自身もまた誰よりも胸の痛みを感じながら、撮影に臨んでいた。
「とにかく生きていてほしいと思っていましたし、息子が死んでしまうなんて考えられなかった。貴代美さんの気持ちに、まったく異論がないんです」
一日の撮影が終わっても、「買い物をして帰ろう」という気持ちにもなれないほど、つらい気持ちが体の中に充満した。けれど、完成した作品を観て、映画の力を強く感じた。
「人の気持ちのなかにぐっと入っていく作品だなと思いました。つらくても悲しくても、”
引力”がある映画というのはいいなと」
石田ゆり子にしかできない。映画やドラマで、そう思わせる役を演じてきた。俳優として、いつも心に留めていることがある。「チームのなかで一つのパーツになれたらいいな」ということだ。
「自分のことばかりを考えないようにしています。自分が『どう映るか』を考え、自意識過剰になると、いいことがないなって思っていて。監督が言うことをきちんと聞いて、チームの一部になれたらそれが一番幸せですし、でき上がった作品を観ても納得がいくんです」
紡ぎ出される言葉は、どれも胸に刻んでおきたいものばかりだ。感情が宿った美しい言葉に魅せられた。
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2020年10月19日号