新型コロナの影響から住宅ローンを払えなくなる人が増えている。それに伴い、任意売却や返済条件の見直しを迫られる人も多い。人間にとって大切な生活の基盤が今、揺らぎ始めている。AERA 2020年10月19日号はその実情を追った。
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「まさか、家をなくすとは思ってもみませんでした」
イベント関連の運送会社でドライバーをしている埼玉県の男性(48)は、言葉少なに語る。
男性は20年ほど前に埼玉県内に2700万円のマンションを購入し、住宅ローンを組んだ。月給は約26万円で、月々の支払いは約12万円。母親と2人暮らしで余裕はなかったが、順調に返済できた。
そこに新型コロナウイルスが直撃した。
3月に入ると大規模イベントは軒並み中止となり、会社の業績は悪化。男性の給与は減らされ、手取りで月20万円近くにまでなった。転職したくても50歳を前にして仕事はない。今の職場で働くことにしたが、貯金はなく、4月になると住宅ローンを払えなくなった。ローン残高は1500万円近くあった。
収入が戻らなければ自分の力ではどうにもならない。6月、借り入れた銀行から競売通告の書類が自宅に届いた。
■任意売却の相談が増加
ついにきたか──。
男性は少しでもいい条件でマンションを売りたいと思い、任意売却を決めた。
任意売却とは、住宅ローンが残っている状態で金融機関の合意を得て通常の方法で売却し、その代金によって残債務を解消する方法だ。市場価格よりかなり安く落札される競売と異なり、有利な条件で売却できるメリットがある。
先の男性は、マンションの買い手が見つかれば立ち退きとなるので、今はマンション近くで家賃の安いアパートを探しているという。男性はこうこぼす。
「家をなくさないために、仕事を頑張って働いてきたのに」
住まいは、人間が安心して生活をする上で最も大切な基盤だ。その基盤が今、コロナによって失われようとしている。