監督自身が90年代のアルジェリアで聴いていたという音楽、そして「フランサラブ語」と呼ばれる、フランス語の単語をアラビア語風に発音した独特の表現も作品に躍動感をもたらす。フランス語で書いたせりふを一つ一つフランサラブ語に変換していったのだという。

 メドゥール監督は内戦から逃れるために、家族とともにフランスへ渡った。

「当時はアルジェリアに残りたい気持ちもあったけれど、あのとき祖国を離れたからこそ、この作品が撮れたのだと思う」と振り返る。

 資金集めに5年以上、自身が納得のいく俳優を見つけるまでキャスティングは3年に及んだ。「パピチャ」は、アルジェリアのスラングで「常識にとらわれない、自由な女性」を意味する。その言葉には、監督自身が大切にする生き方、そして抑圧された世界のなかで生きる女性たちへのエールが詰まっている。

◎「パピチャ 未来へのランウェイ」
デザイナーを夢見る少女ネジュマはファッションショーを行うことを決意する。10月30日から公開

■もう1本おすすめDVD 「あなたの名前を呼べたなら」

 映画「パピチャ 未来へのランウェイ」には、「どうしてもこの作品を撮らなければ」という作り手のエネルギーを感じる。長編デビュー作のなかには監督の出自が反映された作品も多く、トルコの封建的な村で暮らす少女たちの抵抗を描いた「裸足の季節」(2015年)や、インドの階級社会を描いた「あなたの名前を呼べたなら」(18年)など、作り手の強い思いが宿るいくつもの作品を思い出す。

「あなたの名前を呼べたなら」は、インドで生まれフランスに移り住んだロヘナ・ゲラ監督が、大都市ムンバイでメイドとして働く女性の視点を通して、いまも根強く残るインドの階級社会を描いた作品だ。ゲラ監督が幼い頃、家で働いていた住み込みのお手伝いさんが「家族の一員のような存在でありながら、同時に家族という集合体の“外”にいた」記憶が忘れられなかったのだという。

 同作品の主人公もまた、ファッションデザイナーになりたいという夢を持ち、一歩を踏み出そうとする。ファッションは自分を表現するツールであると再認識すると同時に、好きな服を好きなように着て自由に生きていくことの尊さを感じずにはいられない。

◎「あなたの名前を呼べたなら」
発売元:ニューセレクト 販売元:アルバトロス
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2020年10月26日号

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