「スポーツを通して心身を向上させ、フェアプレーの精神をもって平和でよりよい世界の実現に貢献する」というオリンピックの精神やスポーツマンシップというのは、「法を破ってはいけない」という低いレベルの話ではなく、それよりもっと大きな高い倫理観の上にあると思っています。

 日本代表選手は水泳が速いだけでなく規範となるべく高いモラルを持った人間であるべきだと考えて、北島康介を始め多くの選手を指導してきたつもりです。選手は一人で速くなれるわけではありません。多くの人の支援を得て世界の舞台で戦える態勢が整います。「応援したい」と思われる人間的な魅力がなければ、五輪で大きな力は発揮できないのです。

 新型コロナウイルスの感染拡大防止の取り組みが続く今シーズン、ソーシャルディスタンスが取りにくいなどの理由で一時はスポーツに対して批判の目が向くこともありました。そんな厳しい状況を乗り越えて、スイミングクラブを始めとした関係者の努力によって、コロナ禍の中でもトレーニングや競技会ができるようになってきました。

 五輪の競泳日本代表を目指す選手たちは、スポーツの価値を高めるトップランナーとしての自覚を持ってほしいと思います。
(構成/本誌・堀井正明) 

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

週刊朝日  2020年10月30日号

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