日本は完全に追い詰められたのだ。それが50年ゼロ宣言の背景だ。
一方、所信の中に50年ゼロの具体的実現方法は書かれていない。先進各国は、排ガスなどの環境規制を厳格化し、炭素税などの経済的負荷措置も導入している。脱石炭火力も常識だ。助成措置でも厳格なエコカー選別、ガソリン・ディーゼル車販売禁止年次設定なども広がるが、日本では厳しい政策は皆無の状態だ。
さらに、驚いたのは「世界のグリーン産業をけん引し」という表現。日本のグリーン産業は世界から取り残され、太陽光、風力、電気自動車どれをとっても国際競争の蚊帳の外だ。もう一つは、詳しいことは省略するが、経済産業省は電力の「容量市場」を創設して、再生可能エネルギーを販売する新電力に大きな負担を課そうとしている。事実上再エネ抑制につながる措置だ。50年ゼロはますます難しくなる。
だが、菅総理は心配していない。なぜなら、切り札があるからだ。国際公約となった50年ゼロが難しければ、「原発再稼働・新増設を推進する」と言えば済むからだ。
結局50年ゼロは原発推進のための陽動作戦ということになりそうだ。今後の展開を注意深く見ていかなければならない。
※週刊朝日 2020年11月13日号
■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など