今夏、ある銀行の支店が「アート空間」になった。これはSMBC信託銀行が行った「アートブランチ」という取り組みで、2回目の開催となったもの。しかし、なぜ銀行がアート作品を展示するのか?
バブル崩壊後も店舗前に行列
よくある銀行の入り口。ATMを横目に見ながら扉を開けると、そこはまさにアート空間だった。眼前には、世界に名をとどろかす若手現代アーティスト・小松美羽の大型作品が。ほかにもレディー・ガガの靴をデザインしたファッションデザイナー舘鼻則孝、ニューヨークの壁画で名をはせた松山智一など、一流のアーティストの作品が店内を彩る。客は美術館のような空間を通りぬけ、2階の商談ラウンジに向かう。
SMBC信託銀行がこの「アートブランチ」企画を実施するのは2回目。だが、アート事業を始めたわけでも、作品の売買仲介をするわけでもない。マーケティング部の小林和成さんは「差別化を考え続けた結果、この企画に行き着いた」という。この取り組み、あえてカテゴライズするなら、昨今ビジネス界をにぎわせる「CX(顧客体験:Customer Experience)」の一貫。でも、この重要性に気づくには結構な時間がかかった。
「アートとビジネスは相性がいいのでは」
同行は日本にある銀行ながら、もともと外資系の銀行だった。そのため、様々な出身のバンカーが集まっており、多様な経験をしている。1999年、かつて新卒で某外資系銀行に入行した小林さんは、店舗内にごった返すお客さんの整理・誘導をした記憶があるという。山一證券、北海道拓殖銀行、と大型金融機関が次々と破綻していた金融暗黒時代に、日本にある外資系銀行はまだ元気だった。
しかし、のちに競争は激しくなっていく。信託銀行は富裕層の資産管理や運用を行っているが、どんな商品を開発しても、市場には必ず後から類似商品が出てくる。しかも、相手は経済的に満たされている富裕層。金利優遇や手数料割引のキャンペーンだけでは顧客の心はつかめない。多くの銀行からさまざまな商品・マーケティング企画が出てはいるが、大きな経済成長が期待できない日本では「新たな一手」が出てこない。マーケティング戦略を考える立場になった小林さんは、日々頭を抱えたという。