老若男女にターゲットを広げていることも功を奏しているという。

「セーラームーンやプリキュア、キン肉マンなどは、ファンの性別が男女に分かれますが、鬼滅は女性6:男性4くらいでほぼ半々。おじいちゃんや子どもが観ても、ある程度楽しめる。よく引き合いに出されるアニメ映画『千と千尋の神隠し』は、神と人間は共生できるのかという難解なテーマがある。一方の鬼滅は、連続テレビ小説のように、誰が見てもわかるストーリーになっている。大衆娯楽なのです。だからこそ、小さい子どもから大人まで支持を集められるのだと思います」(有村氏)

 「鬼滅は性別や世代だけでなく、イデオロギーをも超越する」と指摘するのは、ツイッターアカウント(@C4Dbeginner)で映画評論をつぶやき、5万人超のフォロワーを獲得しているCDB氏だ。

「鬼滅は万人受けするコンテンツ。最近の映画はジェンダー観やイデオロギーによって対立する傾向がありますが、いわゆるネトウヨからも日本の心があると支持され、フェミニストからも優しい作品だと支持される。対立を生まない、非常にバランスのとれた映画だと思います」

 興収歴代1位の「千と千尋」との共通点について聞くと、CDB氏は次のように語った。

「どちらも、『欲望』対『子ども』という点では共通しています。千尋は親の欲望を償うために異世界で奮闘し、禰豆子は人を喰らう欲望に傷つけられて鬼になり、自身もその欲望と戦い続ける。また、千尋は名前を奪われて『千』になりますが、禰豆子は言葉を奪われる。どちらももう一回人間になれるのかという、再生の物語でもあります」

 鬼滅は「1作完結型」の映画とは違い、「テレビアニメの続き」と言う位置づけだ。作中では、「柱」や「全集中」といった作中用語の説明や、明確なキャラ説明もない。それなのに映画は初見の人でも楽しめているようだ。その理由について、CDB氏は次のように話す。

「私の職場でも『話題だし、予備知識ゼロで見たけど面白かった』という人がたくさんいるのですが、よく知らなくても感動してしまうのは、悲劇の文法が日本的だからだと思います。救われる人もいれば、救われない人もいて、勝利の快感・明確なカタルシスがない。従来の多くのジャンプ作品のようにスポーツのように戦うのではなく、炭治郎は悲しみながら、ずっと苦しみながら戦っているという点で特殊。こんなに悲しみながら戦う漫画がここまでヒットするのはあまり記憶にない。感情の見せ方が上手だから、初見の人でも、炭治郎の言動を直感的に感じ取れる。人形浄瑠璃や浪曲がストーリーを知らなくても悲しみを誘うように、ストーリー全体を知らなくても、『悲しみ』という普遍的な感情をもとに、日本人の心に強く訴えるのだと思います」(同)

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快挙まで秒読みか?“カンフル剤”の存在