ブロードウェーの夢をかなえたミュージカル俳優・高橋リーザさん。新型コロナ感染拡大で出演舞台が中止に追いやられた。夢も仕事も失った彼女を支えた心のケアとは。「逆境マネジメント」を特集したAERA 2020年11月16日号から。
【写真】「やまない雨があるならその雨雲の上に行く」と語った“逆境”先生は?
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ミュージカル俳優、高橋リーザさん(29)のもとに今年3月12日、一通のメールが届いた。
「今日からの公演は中止だ」
人生をかけて追い続けてきたブロードウェーの夢をかなえ、トニー賞最多ノミネートの名作「ミーン・ガールズ」に唯一の日本人キャストとして出演していた。週8公演を行うミュージカル漬けの日々は、新型コロナウイルスの感染拡大で突然中断された。翌月から出演予定だった舞台もなくなった。
しばらくはトレーニングや動画配信などで忙しく過ごしていたが、4月に入ると何も手につかなくなった。そんなとき、心療内科医のセラピーを受けて、劇場閉鎖後、初めて泣いた。
「夢があったからずっと走り続けてこられたけど、その夢も仕事も突然なくなった。それでも、エンターテイナーなんだから不安な顔を見せてはいけないと、自分を追い詰めていました」
セラピーを受けるようになったのは、ブロードウェーに出演した2018年からだ。デビュー直前から半年以上も鼻炎が続き、体と心のケアの重要性を実感。週に2、3回、整体やハリ治療、心療内科に通い始めた。
「日本では心療内科に行くことを隠す人も多いけど、ニューヨークでは行かないほうが驚かれるほど一般的です。不安になることってみんな絶対にあるから」
セラピーを通して学んだのが、「不安や悲しさ、悔しさを尊重することの大切さ」だ。
「『いつも笑顔でポジティブでいないと』と思いこんできた脳を変えるのは難しいけど、気持ちが楽になる場面は増えました」
逆境はこれまでも山ほどあった。英語を習得するために高校から留学、入学初日の授業で他の生徒たちがどこに移動したかわからず、30分も校内を一人でさまよった。言葉の壁は厚く、ホームステイ先の家族も冷たい。