2015年1月からの増税を見据え、相続税対策の動きが出始めている。しかしその複雑さゆえ、多くの人にとっては手に余るというのが率直な感想だろう。そこで専門家の知恵を借りて、ひとつのパターンを例に、どうすれば相続税を節税できるのか研究する。

 今回例に出すのは、7年前に妻を亡くし、千葉県の賃貸マンションに一人暮らしをするAさん(75)。長男(50)と長女(47)はそれぞれ近県にマイホームを建てて暮らしており、孫はいない、という場合。

 このケースの相続人は長男と長女の2人。相続財産は7千万円で、現行制度ならギリギリ相続税がかからない。だが、新税制下の基礎控除の4割カットで、改正後は計320万円の相続税がかかってくる。

 これを避けるには、何らかの対策を講じるしかない。だが、Aさんは賃貸マンションに一人暮らしで、長男、長女ともに既にマイホームを建てているという状況では、節税の目玉である小規模宅地等の特例を使う恩恵にもあずかれない。

 日本中央会計事務所の代表である税理士の青木寿幸(としゆき)さんは、Aさんに長男が建てたマイホームのうち、建物部分を買い取ることを勧める。

「相続税を計算する際、建物は固定資産税の評価額を使いますが、住み続けているとドンドン下がる。そのため、土地と比べて購入価格と評価額の乖離が大きくなり、相続税の節税につながるのです」(青木さん)

 長男が10年前に鉄筋の建物を4千万円で建てていたとすると、古くなった分減価償却されて価値が約25%減るので、Aさんの買い取り額は3千万円でいい。

「固定資産税の評価額は建物の時価の5~6割程度になる。そのため、買い取った時点で建物の評価額は1500万円程度になっています。さらに10年後にAさんが亡くなったとすれば、1千万円程度になっているはずです」

週刊朝日 2013年2月15日号