落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「鬼滅の刃」。
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とにかく『鬼滅の刃』。老いも若きも、男も女も、みーんな『鬼滅の刃』。映画は動員記録を更新中で流行語大賞にも、もちろんノミネート。
おまけに菅総理まで予算委員会で「全集中の呼吸で答弁にのぞみます」とやってどんズベリ。国会のおじさんおばさんたちには通じなかったようだ。ならば一度でやめずに毎日言い続けなければ。顔に痣のペイントしたり、竹の筒を咥えたり、金髪にして居眠りしたり、天狗の面をつけたり……これでもかこれでもかと諦めることなく次の攻撃を繰り出さないと。鬼殺隊の隊員たちを見習え、菅さん。
我が家といえば、コロナ自粛の最中に気づいたら単行本が全巻揃っていた。家内がAmazonで大量購入したようだ。「読んでみたら? ハマるよ!」と勧められて私も読んだ。なるほど。最初は画になかなか入り込めなかったが、読み進めていくうちに慣れてきた。「キン肉マン」「北斗の拳」「聖闘士星矢」「キャプテン翼」に浸っていた小学生のころを思い出し「おー、今、オレ、(週刊少年)ジャンプ読んでるっ!」と、熱いものが込み上げてきた。22巻まで読んだ。まだ最終巻の発売まで待たされている状況。私以外の家族は何度も何度も単行本を繰り返し読み続けている。おじさんは何度も読む気力と時間、そして記憶力もない。キャラの名前とストーリーをどんどん忘れていく。甘露寺蜜璃だか、貫地谷しほりだか、我妻善逸だか、我妻佳代だか、煉獄杏寿郎だか、千石イエスだか、炭治郎だか、団時朗だか……もう頭パンパン。
浅草の老舗蕎麦屋・十和田の店先で緑と黒の市松模様のマスクが売っていたので購入し、子どもらにあげると「炭治郎マスクだーっ!!」と予想以上に喜んでくれて父親の株が上がった。よかった。ただ家にあった緑のチェック柄のネルシャツが表で着られなくなってしまった。こんなの着てたら周囲から「おやおや(ニヤリ)」と思われるに違いない。ブームが去るまでタンスの奥に居てもらおう。