多くの名指揮者が輩出したコンクールで1位を獲得し、いま、もっとも注目を浴びる指揮者の一人。コロナ禍での音楽と、11月下旬に控えた日本での公演について語った。AERA2020年11月30日号の記事を紹介する。
* * *
2018年に東京国際音楽コンクール指揮部門で第1位を、19年には小澤征爾・佐渡裕らが輩出したブザンソン国際指揮者コンクールでも第1位を獲得した沖澤のどか(33)。一躍、脚光を浴びた若手指揮者である彼女が、11月26日から始まる東京二期会のオペレッタ「メリー・ウィドー<新制作>」(レハール作曲)を指揮するため、住居のあるドイツから帰国した。コロナ禍で客席数を減らした影響はあるものの、25日のプレビュー公演を含めると全5公演のチケットは早々に残席僅少となった。沖澤への注目の高さを示すものだろう。2週間の自主隔離を経て、今はリハーサル中だ。
■独でペトレンコに学ぶ
「メリー・ウィドー」は10月の日本滞在の時、歌手の方たちと音楽の部分を先に稽古してあり、これから演劇の部分とつなげていきます。日本の歌手の皆さんはとても丁寧に楽譜を読んでいるので、それをいかに崩していくかに面白みがありますね。
沖澤は青森県生まれ。東京藝術大学指揮科・同大学院修了後、ハンス・アイスラー音楽大学ベルリンの大学院へ留学し、研鑽を積んだ。体幹部のしっかりした指揮、自分の意図を明確にオケに伝えるコミュニケーション力から生まれた音楽は、強さと柔らかさを持つ。現在はベルリンフィルハーモニー管弦楽団で首席指揮者キリル・ペトレンコのアシスタントとしても活動中で、この情報が流れた時は「あのペトレンコのそばで学べるとは!」と、音楽ファンの間で大きな話題を呼んだ。しかしコロナ禍により、予定されていた仕事はいくつか中止になってしまった。
残念でしたが、その代わりにベルリンの家で静かに楽譜を読む時間が増えました。
日本は欧州に比べるとオペラの上演機会が少なく、本格的なオペラ公演に限れば沖澤も副指揮や音楽スタッフとしての経験がほとんどだが、ハンス・アイスラー音大ベルリンの大学院ではオペラ指揮のカリキュラムが組まれており、オケピットの中に入って歌手とコミュニケーションしながら指揮をする実践的な体験を積むことができたという。オペラやオペレッタを聴衆として楽しむ機会も増えた。