帰国後、東洋大での練習に一時参加している清水咲子を交えて、ISLを振り返るミーティングをしました。専門の個人メドレーだけでなく平泳ぎ、バタフライとフル回転した清水は「レースでやろうと決めたことは、どんなに苦しくてもやりとげようと思っていた」と話しました。

 そして、こう付け加えました。「これまでは試合でほかの選手が活躍していると『自分も頑張らなければ』と焦っていました。今回はチームメートのだれかが活躍すると自分のことのように思えてうれしかった。大会を通して成長できたと思います」。28歳のベテランスイマーが、そんないい話をしてくれました。

 競技力向上には人間性を伸ばしていくことが大切と言われます。他人の成功を素直に認められることは重要な要素だと思います。

 ISLの準決勝の後、会場で北島GMがテレビの取材を受けているところに、イギリスのアダム・ピーティーが近づいてきました。男子100メートル平泳ぎで短水路世界記録を出したリオ五輪の金メダリストです。それを察してインタビューを中断した北島GMに緊張した面持ちで手を差し出し握手を求めていました。

 25歳のピーティーにとって同じ平泳ぎで五輪2大会2冠を果たした北島GMは、子どものころのあこがれだったでしょう。「いつか北島選手のようになりたい」というリスペクトの気持ちが、彼をここまで強くしたのだと思いました。

(構成/本誌・堀井正明)

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数

週刊朝日  2020年12月11日号

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