


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
* * *
昨今はお見合い結婚などあまり聞かなくなったが、セリーヌ・シアマ監督の新作「燃ゆる女の肖像」は、18世紀フランスを舞台に、一点のお見合い肖像画を通じて恋に落ちた女性画家と貴族の女性との恋愛を描く。本作で貴族の女性エロイーズを演じるのがアデル・エネルだ。
画家のマリアンヌ(ノエミ・メルラン)は、エロイーズの肖像画の制作を依頼され、ブルターニュの孤島にやってくる。結婚を拒み続けるエロイーズに、散歩の相手と偽って近づき、ひそかに彼女を観察しつつ、肖像画を描き上げるのだ。
「エロイーズは婚約者について一切知らない。結婚を拒むのは、『自分の人生なのに、なぜ自分に結婚の決定権がないのか』ということに対する反逆なの。結婚は彼女にとって正当性のないこと。自分とは関係なく世の中が回っていると感じている」
完成した肖像画を認めないエロイーズ。マリアンヌは5日の猶予をもらい描き直す。最初は結婚せず画家の道を独歩するマリアンヌに、自分の立場を理解していないと反発するエロイーズだったが、次第に二人の間に理解と友情が生まれ、愛へと発展する。
「同性愛についての映画だけれど、男性が一方的な力を持つような恋愛と異なり、同等の立場にいる人間の恋愛であるという点が重要なところ。そこから恋愛やエロティシズム、イマジネーションが広がっていく」
全編を通し男性はほとんど登場しない。また、二人の恋愛のほかに、食事や喫煙、音楽や読書、生理や妊娠中絶などのシーンを織り込み、女性の生きた現実を、女性の視点と主観によって力強く描く。男性視点に支配されがちな映画の世界において、ある意味冒険的で新鮮な映像だ。
「この映画を観て、18世紀を現代的に解釈していると見る人も多いかもしれないけれど、史実は変えていない。監督は事実を異なる視点から見ようとしただけ」
シアマ監督のデビュー作「水の中のつぼみ」(2007年)でアデルと監督は出会い、しばらく私生活のパートナーとなった。本作はアデルのために執筆された脚本の映画化だ。