尖閣諸島をめぐる日中関係の緊張は収まる気配がない。中国は従来、尖閣諸島は「古来、中国の固有の領土」であり、「日清戦争のときに盗み取られた」と主張。中国外務省は、

「第2次世界大戦後、『カイロ宣言』と『ポツダム宣言』などの国際文書に基づいて、釣魚島(尖閣諸島の中国名)を含む島嶼は、日本に占領されたその他の中国領土と共に中国に返還された」

 と指摘している。

 ところがそのカイロ宣言が発表された1943年のカイロ会談の舞台裏で、中国が尖閣諸島の領有権を放棄していたことを示す決定的な事実が見つかった。筑波大学名誉教授で東京福祉大学国際交流センター長の遠藤誉さん(72)が、新著『チャイナ・ギャップ 噛み合わない日中の歯車』(朝日新聞出版)の中で明らかにした。

 カイロ会談には、米英中首脳が出席。この時、中華民国主席の蒋介石は米大統領ルーズベルトと2人だけの「密室会談」を行った。ここでルーズベルトが、

「日本を敗戦に追いやった後、琉球群島をすべて中華民国にあげようと思うが、どう思うか」

 と何度も聞いたにもかかわらず、蒋介石が断ったというのだ。

 ここでいう「琉球群島」には、尖閣諸島も含まれる。1895年に尖閣諸島は沖縄県に編入されているからだ。この密談の後、蒋介石は琉球群島領有を断ったことをひどく後悔し、同席した部下に「絶対に口外するな」と口止めしたという。

 蒋介石が領有を断った理由は、日本と新たな摩擦を起こすより、内戦中の中国共産党を倒すことに全力を注ぎたかったためではないかと遠藤さんは見る。

AERA 2013年3月4日号