大阪のホテルに、その人物は現れた。外事警察らしい尾行と監視が続いた。北朝鮮の意を受けて動く「国際ロビー団体」が日本に現れた目的は何か――。
外国から密かに来日したその人物の国籍、居住地は記すことができない。仮にA氏としておこう。A氏はある国際ロビー団体の関係者。マカオ、香港、シンガポール、台湾などに拠点を持つ企業家たちのグループだ。
彼らの共通点は、あの北朝鮮とビジネスを中心に深い関係を持つことだ。
「設立の目的は、北朝鮮と国際社会の間の友好協力を進めること。北朝鮮がどういう国か、いかに大きな市場になる可能性を秘めているか、国際社会に知らせる役割も担っている。それだけではない。全世界に向けた北朝鮮の対外窓口であることも否定しない」
A氏の説明は、このようなことだった。核とミサイルで世界を脅し、孤立を深める閉鎖国家・北朝鮮。その意を受けて、国際社会を舞台に水面下で動くのが「朝鮮国際商会」というこの対外ロビー団体なのである。
会長はシンガポール人の女性実業家。だが裏で仕切るのは朝鮮人民軍での故金総書記の長年の側近で、金正恩(キム・ジョンウン)体制となったいまも隠然たる影響力を持つ呉克烈(オ・グンニョル)・国防委員会副委員長といわれる。
しかし、その団体の関係者がなぜ日本に現れたのか。
「北朝鮮指導部は日本外務省を信用していない。いくら外務省と交渉しても事態は悪化するばかりだと考えているのだ。だから国際商会に、別の対日パイプ作りに動いてほしいと依頼してきたのだ」
A氏はこう口にした。だが日朝関係がよくなる前提は、言うまでもなく拉致問題の進展だ。それについてA氏は拉致被害者に絡む「あるリストの存在」をちらつかせたという。だがリストの具体的内容には言葉を濁し、詳しい話をしようとはしなかった。
リストは実際にあるのか、あったとして、それは「本物」なのか。北朝鮮がこれをエサに日本を自分たちのペースに巻き込もうとする可能性は十分あり、日本としては「プロの見極め」が必要だろう。拉致問題進展を見せ球に、実は食糧・肥料支援を得るのが真の目的である可能性も否定できない。
※AERA 2013年3月4日号