AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【映画「ニューヨーク 親切なロシア料理店」のワンシーンはこちら】
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デンマークのロネ・シェルフィグ監督(61)は、「17歳の肖像」(2009年)が米アカデミー賞3部門にノミネートされ、世界的な脚光を浴びた。彼女のオリジナル脚本となる新作「ニューヨーク 親切なロシア料理店」は、老舗レストランで出会う人々の群像劇だ。
「あるイベントに参加した時、美しい女性がテーブルに用意されていたカナッペを盗んで逃げる場面に遭遇したの。外には子どもの乗った車が停まっていて、事情を察した。それをきっかけに貧困や家庭内暴力などの問題について考えるようになった。でも本作における家庭内暴力は作品の一要素でしかなく、見知らぬ人同士でもお互いを助け合うことができるかがテーマなの」
主人公は二人の幼い息子を抱えたクララ。暴力的な夫から逃れてマンハッタンにやってきたが、大都会でのサバイバルは厳しい。寝泊まりや食事に困っていたところ、たまたま転がり込んだロシア料理店で、見知らぬ人々から優しく手を差しのべられる。
「ニューオーリンズやルイジアナを訪れた時、橋の下で寝ている人たちを見て、世界中にこのような境遇の人がいるのだ、と考えさせられた。そんな折、ニューヨークで、夜に橋の下で寝ている人を訪ねて温かい飲み物を届けている人たちに出会った。スカンジナビアでは社会保障が整っている分、チャリティーはあまり活発ではないのだけれど、アメリカにはボランティア活動をする人が大勢いる。彼らの姿を見てとても感動した」
ロシア料理店を舞台に、世渡りの下手なジェフ、兄をかばい犯罪歴を背負うマーク、献身的な看護師のアリスなど訳アリな人々が登場する、人種のるつぼビッグ・アップルならではの物語だ。
「さまざまな人生が交差するパッチワークのような物語にしたいと考えた。貧富の差が極端で、社会的な階級差が大きいという点でニューヨークを選んだの。ニューヨークの現実を反映させつつ、人々の私生活にも目を向けたかった」