私はマンボウ類の小さな発見を地道に記録していきたい博士である。
以前、「ヤリマンボウの死がつなぐハシブトガラスの生~海と陸の意外な繋がり~」という記事で、ハシブトガラスが座礁したヤリマンボウを採食した場面が初めて観察されたという話をしたが、今年も冬がやって来て、日本海側でヤリマンボウが座礁する季節になった。
今回は私のTwitterのフォロワーさんから寄せられた情報が、「日本におけるヤリマンボウの北限記録の更新」に繋がったという市民科学者的発見の話をしたいと思う。
■偶然のツイートが貴重な発見へと繋がった
2020年11月12日、私のTwitterのフォロワーさんから突然「青森県の合浦公園海水浴場でマンボウが座礁している」とのツイートが写真と共に送られてきた。写真をよく見ると舵鰭の中央部が後方に突き出ている。これはマンボウMola molaではなく、ヤリマンボウMasturus lanceolatusだとすぐにわかった。ヤリマンボウは台湾など熱帯海域で多く漁獲されるが、日本近海ではあまり漁獲されない稀種である。
これまで日本近海におけるヤリマンボウの北限記録は日本海側では秋田県、太平洋側では宮城県とされてきた。つまり、青森県からのヤリマンボウの出現記録はない。これは科学論文で報告すべき貴重な発見じゃないか! そう直感した私は、座礁現場にいるフォロワーさんにこういう写真を撮ってほしいと弾丸のようなツイートを送り、座礁個体のいろんな角度、いろんな体の部位の写真を撮ってもらった。また、長さの指標となるものが欲しいとお願いし、砂浜に転がっていた空き缶を拾って、本個体の横に並べて写真を撮ってもらったりもした。
写真から見たサイズ的に冷凍して送ってもらえるレベルの大きさではない。散歩してて偶然発見したフォロワーさんが、そう都合よくサンプルを切るものを持っているはずもない。私も仕事があるので、現場に行けない。サンプルは諦めて、可能な限り詳しく現場の情報を教えてもらった。フォロワーさんが一度現場を離れ、再び戻ってきた時にはヤリマンボウの死体は消えていた。この時、実は座礁してから3日が経っており、臭いもしてきたので、公園を管理する団体が青森市に依頼して、本個体は最終処分場へと回収されたのだった。大型生物はこういう事態がよくあるので、発見したその時に写真をたくさん撮ることが重要である。回収される前に偶然居合わせ、私に連絡をくれたフォロワーさんに大きな感謝である。