ユトレヒト(撮影・和氣正幸)
ユトレヒト(撮影・和氣正幸)

■「行きたい」から「やりたい」へ

 以上、長くなったが筆者が知りうる店の中でもいま一番気になる本屋を紹介した。共通しているのは小規模店であり空間が限定されているが故に選書や空間演出に店主の思いや人柄が色濃く反映されていることだ。

 話を戻そう。本稿で筆者が言いたいのはこういった本屋の数が増えているということである。

 具体的な数値面について客観的なデータがないので筆者が知っている限りのものとなるが、開業数だけを追ってみても、2015年、16年が6店、17年に17店と2倍以上になり、18年が15店、19年25店、20年には35店もの開業があった。

 21年はそこからさらに増え79店となり、22年は少し落ち着いて50店だったが、それでも5年前と比べると約3倍のペースで増えていることがわかる(古書店や私設図書館等も含む)。

 要因はいくつかあるが、時系列に沿って言えば、2000年代に「こんな本屋に行ってみたい」「こんな本屋を自分も開いてみたい」と思わせてくれるような店のオープンが相次ぎ、10年代前半には本屋の概念の拡張が行われ「自分でもできるかも」と思えるようになった。10年代後半は、本屋になるための具体的な道筋が広まり、20年代になると継続性に難点のある本屋のビジネスモデルにあたらしい風がもたらされた。その結果として開業数が増加している現在へと至る。

 どこをスタート地点に持ってくるかは難しいところだが、1986年の「遊べる本屋」と銘打ち本と雑貨をシームレスに売り出す手法が斬新だったヴィレッジヴァンガード1号店(愛知県名古屋市)開店を始まりとしたい。次のトピックスは96年まで飛ぶ。文脈棚という本の内容を緩やかにつなげていくことで棚をメディアとして価値づけた往来堂書店(東京都文京区)のオープンがこの年なのである。

 2000年にはブックカフェの先駆け的存在火星の庭(宮城県仙台市)が生まれ、02年は「暮しの手帖」元編集長・松浦弥太郎氏がCOWBOOKS(東京都目黒区)を開き古本屋をカッコいいものとして世の中に提示した。

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