タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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アメリカのタイム誌が「今年の子ども」を新設。選ばれたのは、15歳の科学者・発明家のギタンジャリ・ラオさん。ネットいじめや環境汚染への取り組みと「誰かを幸せにするのが、私の毎日の目標です」という言葉が共感を呼びました。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんなど、広い視野で物を考える次世代のリーダーが育っています。
思い出したのは今年9月、俳優の芦田愛菜さんが主演映画のイベントで語った「信じること」についての考察が「高校生とは思えない」と話題になったこと。成熟した人間観を平易な言葉で語る芦田さんの様子からは、豊富な読書量と深い思考習慣が窺(うかが)えました。示唆に満ちた素晴らしいコメントだったのですが、司会者は困惑したように「難しいですね」と受け、監督や共演者も引き気味でちゃかすように反応したのが残念でした。“16歳とは思えない知的すぎる回答”に戸惑い、大人たちは驚きを笑いに転じようとしたようです。作品に深みを与える芦田さんのコメントに共感を示す形で展開することもできたのに。“まだ高校生”という先入観と、真面目な話を反射的に笑う習慣が表れていて、考えさせられました。
相手の知性を信頼して真剣に話を聞き、敬意を持って接すること。“真面目な話”から逃げないこと。今年度から始まったアクティブラーニングでも、それがベースになければ子どもの学びは深まらないでしょう。そもそも、大人同士にそのような会話の習慣がなければ、子どもとの知的対話は成立しませんよね。
なんでもちゃかす態度には、職場での「今どきは何を言ってもセクハラになっちゃうよ」にも通じる、視野の狭さと話題の貧しさを感じます。真面目な話なんてと思考停止した大人は、地球を滅ぼす。若い世代の知的リーダーたちのそんな言葉を、あなたは笑いますか。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2020年12月21日号