「文学部だったためか、とにかく書類が通らずに200社くらいにはがきを書きました。最後は、辛うじて東京と京都の会社、2社から内定をもらったのですが、大阪の両親のもとから逃げたいという思いで東京に行きました」

 そして、歯車は少しずつ狂った。

 就職したのは、著名なIT企業だったが、その後、転職を繰り返した。別のIT企業、タイヤメーカー、レコード会社。短期間に転職を繰り返して人事の仕事に携わり、その間、結婚離婚も経験。転職のストレスを常に抱えながらうつ病を発症し、治療をしてきた。自殺未遂をしたこともあった。

 上京から10年ほどたったころ、母親の肺がんが発覚した。大阪に帰ることにしたが、やはり家族との折り合いが悪く、じきに絶縁状態になった。

 つらいのは、頑張っているつもりでも、なぜか裏目に出てしまうことだった。男性が言う。

「昨年、就職氷河期世代がまた注目されましたが、新型コロナでそれどころではなくなってしまいました。『公助』も含めて安定した仕事で生きていけるようにしてもらいたい」

 就職氷河期世代は、93年から2004年ごろまでに社会に出た世代だ。第2次ベビーブームの団塊ジュニアを含む約2千万人がこの世代に該当し、大卒なら現在は30代半ばから40代後半。この世代は“ロストジェネレーション”とも言われる。新卒時に新卒の求人倍率が極端に低く、就職がうまくいかなかったり、不安定な雇用のまま働き続けたりした人たちも多いといわれる。

 昨年、このロスジェネ世代が注目を浴びた。安倍政権(当時)が「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」にこの世代への支援策を打ち出したからだ。3年間で30万人の正規雇用者を生み出す──。こんな目標を掲げたが、コロナで社会は一変した。やっと向けられた支援だったのに、事態は目標と逆行しているかのようだ。

 厚生労働省によれば12月4日現在でコロナが原因となる解雇や雇い止めは、見込みも含めて約7万5千人。非正規雇用の労働者ばかりではなく、少なくとも約2万7千人は正規雇用の人たちだ。帝国データバンクによれば、コロナ関連の倒産は個人事業主も含めて12月8日までに776件が判明している。

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