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作家・道尾秀介さんの著書の累計発行部数が、1月7日発売の『風神の手』(朝日新聞出版)の刊行をもって600万部を突破する。それを記念して、文庫を刊行している版元10 社(朝日新聞出版、KADOKAWA、幻冬舎、講談社、光文社、集英社、新潮社、中央公論新社、東京創元社、文藝春秋)が共同書店フェアを開催。そこで、大ベストセラー『向日葵の咲かない夏』や最新刊『風神の手』の文庫に解説を寄せ、道尾作品をこよなく愛するミステリ評論家の千街晶之さんを聞き手に、フェア参加の10作品を道尾さん自身に振り返ってもらった。前後編にわたり、お届けする。前編は、デビュー作『背の眼』から、日本推理作家協会賞を受賞した『カラスの親指』まで。
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■デビュー作には作家のすべてがある『背の眼』
――2005年刊行のデビュー作ですが、今から振り返ってどのように感じますか。
道尾:書き始めたのは18年か19年前ですが、「レエ……オグロアラダ……ロゴ」という謎の声を仕掛けに使うことを思いついた瞬間は、いまだに鮮明に覚えてます。読み返すと、やっぱり京極夏彦さんの影響を受けているのがわかりますし、あとは主人公が道尾秀介という作家だという設定は、今だったら恥ずかしくて書けないかもしれない。でも当時はデビューしていないから、道尾秀介という人物は世の中に存在していなかったんですね。だから何の違和感もなくて、しかもエラリー・クイーンとか法月綸太郎さんとか、不勉強で読んでいなかったので、語り手=作者の名前という前例があるのを、なんと知らなかったんですよ(笑)。自分が思いついたと思ってたぐらいで。
――デビュー作の時点で、何気ない嘘が回り回って人の運命を狂わせるというテーマを書いているあたり、道尾さんはこの時期から道尾さんだったというのを強く感じます。
道尾:好きなものは変わらないというのは僕も読み返して思いますね。この作品のように横溝正史の岡山ものの世界観が好きなんです。5月に新潮社から出る予定の最新作『雷神』も、閉鎖的な田舎町で起きるミステリなんですが、最新作まで好みが変わってないのは嬉しいことです。