――この作品の主人公である二組の兄弟(兄妹)もそうですが、道尾さんの小説には親を失った子供がよく出てきますね。
道尾:信条として持っているのは、他人のような家族より、家族のような他人のほうが絶対強い、ということです。その思いがあって『カラスの親指』では擬似家族を書きました。『龍神の雨』では、そこへさらに子供の未熟な心理が混じってきて、本当は強いはずの絆がまたねじれてしまう。そのねじれやゆがみを書きたかったんです。それで、血がつながっていない親と暮らしている子供たち、という設定をまず作りました。
――この小説には、道尾さんが描いた中でもトップクラスの悪人が出てきますが、悪人を書く時はどのような気持ちなのでしょうか。
道尾:何の理由もなく残虐なことをする人間って、世の中を見渡すといくらでもいますよね。僕は、何かやむにやまれぬ事情で罪を犯してしまう人も書きたいし、そういうサイコパスのようなキャラクターも書きたい。どちらかばかり書いていると、僕も読者も面白くないですから。
■山本周五郎賞受賞作『光媒の花』
――前の話の登場人物が次の話で重要な役割を務める、リレー形式の連作ですね。
道尾:ミステリの短篇として依頼があって、まず「隠れ鬼」を書きました。でも単純な短篇集にはしたくなかった。本にするためのつなげ方を考えて読み返していたら、ラストシーンで隠れ鬼をしている少年が僕の中でクローズアップされていったんです。この少年は、どんな子なんだろうって。それで、脇役だった人物が次の主人公になっていくリレー形式の作品を書こうと思いました。前半は暗鬱な話で後半は希望のある話ですが、それは実際、世の中には光と陰があって、それらが半々で成り立っているという思いがあるからです。後半は自分が光に向かっていく気持ちで書きました。
――ミステリと純文学の両方の要素を入れた一冊という印象を受けます。
道尾:僕はそこの区別もよくわかっていないですけど、全部一人称ですし、語り手が6人いるので、文体も主人公に合わせて変える必要があります。でもそれぞれの語り手の心理の深いところまで入り込んでいかないと文体は変わってくれないので、そこが純文学的に読めるのかもしれないですね。