高次脳機能障害という言葉を聞いたことがあるだろうか。病気やケガで脳に損傷を負うことで、記憶力や注意力の低下、感情のコントロールが難しくなるなどの複雑な症状が出て、社会生活に影響を与える障害だ。「外見では分からない」障害のため、周囲に症状や抱える苦しさを知ってもらえず、孤立してしまうこともある。その当事者が語った障害の現実と、社会への願いとは――。
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2015年、裏社会や貧困問題などを取材してきた社会派ルポライターの鈴木大介さんは、41歳で脳梗塞を発症し高次脳機能障害の当事者となった。その後、生活は一変したが、鈴木さんはライターとして自らの現状を執筆することを決意。リハビリを経て、5冊の本を書き上げるなど障害についての情報発信を続けている。
東京・江戸川区で開かれた高次脳機能障害の当事者たちによるトークセッションで講演した鈴木さんは、自身の経験した症状をこう語った。
「簡単に言うと、日常生活の『当たり前』が全滅する障害です。『当たり前』とは、病前は無意識に行っていたこと。何も考えなくても脳が自動的に情報を処理してくれて、やれていたこと、それができなくなるということです」
高次脳機能障者は全国に30~50万人いると推計されている。脳卒中や脳腫瘍、脳炎、事故による脳の損傷などが主な発生要因とされる。症状としては「記憶障害」「注意障害」「失語」「遂行機能障害」「社会的行動障害」などが出ると言われるが、脳のどこを、どの程度損傷したかによって症状や障害の重さは人それぞれ異なる。
たとえば、鈴木さんは次のような「当たり前」ができなくなった。
▽人ごみを歩く(上手に人を避けられない)
▽自然な会話をする(相手の会話のスピードがとても速く感じて話についていけない)
▽スケジュールを立てたり組み替える
▽多くの物の中から特定の物を探す(テレビのリモコンからあるボタンを探す作業など)
▽気持ちを平静に保つ