

「去年のトホホ」「今年のホホホ」をテーマに俳句を募ると517もの句が寄せられた。テレビ番組などで人気の夏井いつきさんが特選六句を選定。秀作(★)や夏井さんの目にとまった句を機微に触れつつ指南する。さて、あなたの五七五は?
【前編/コロナ禍俳句が大集合 夏井いつきが「トホホ」や「ホホホ」を解説】より続く
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★春の日を空気のような夫と行く(そまり)
「空気のような夫」をトホホと思っているのではないな。季語「春の日」が優しくて明るいもの。二人でホホホと共白髪で生きていきましょうという一句に違いない。
夫婦とは共に過ごす年月によってウィスキーのように熟成されていくもの。馥郁(ふくいく)たる年月を一緒に過ごすためには、何よりも健康が第一である。
★寒暁や前立腺といふ荷物(中島走吟)
★リハビリの骨の軋めり水涸るる(はまゆう)
前立腺に異常が見つかったのか。「荷物」という比喩がズシリと響く寒暁だ。はまゆうさんはリハビリの日々。骨が軋むような辛さ。「水涸(か)る」が冬の季語。心身ともに涸れるような冬である。
「チャチャチャと笹鳴のごと膝痛む」と論子さんも痛みと暮らしている。が、自分の痛みが「笹鳴(ささな)き=冬の鶯(うぐいす)の舌打ちするような地鳴き」に似ていると気づくと、鶯が労(いたわ)ってくれているようにも思える。トホホだけど、ホホホな鶯との出会い。
体の不調を詠むとどうしても深刻になりがちだが、己をちょっと突き放し、少しだけ客観的に眺めてみれば、ほのかな可笑(おか)しみも生まれる。
★差し歯ガクガクとままこのしりぬぐひ(きとうじん)
「ままこのしりぬぐひ」が季語。タデ科の一年草だ。茎や葉が棘だらけなので憎たらしい継子の尻はこれで拭くという、とんでもない命名の花だ。
言うまでもなく、差し歯がガクガクすることと「ままこのしりぬぐひ」は何の関係もない。が、季語との取り合わせは、作者が投げてくる謎々ボールみたいなもの。「差し歯ガクガク」と掛けて「ままこのしりぬぐひ」と解く、その心は? という作者の謎かけに挑むのが解釈鑑賞でもあるのだ。